「いっそ、“わたしを食べて”ってのはどうだい」
「
「ごめん、ごめん、ジョークだよ。ジョークだってば」
「それいいね」
「・・・・・・なに?」
ここは“物質融合研究所”である。いちおう公的機関ではあるが、なにしろ人手不足で所長は大学教授を兼任していてふだんは不在である。
研究員も大学院生が三人のみで、あとは裏庭の犬小屋に、教授の愛犬“ポポ”が一匹いるのみである。最年長で背の高い高梨。研究と本にしか興味を示さない真一郎。そして紅一点で美貌を持て余している
祐美子は真一郎に惚れており、なにかにつけモーションをかけるのだが、一向に相手にしてもらえないのが不満だった。というより、気が付かないと言った方が正しい。
「お前ら見ていると、歯がゆいというか、なんというか・・・・・・」
「だってしょうがないでしょ。真一郎、根っから鈍いんだから。でも、そこがまたいいんだよね」
「はいはい。あ、ところで明日、真一郎の誕生日だって知ってた?」
「うん、なにかあげたいんだけど、まだ決まってないんだ」
「それじゃ、いっそ“わたしを食べて”ってのはどうだい?」
高梨のアイデアはこうである。
開発中の機械を使って、ケーキと祐美子が合体する。真一郎のデスクの上に、リボンをつけた化粧箱にケーキと共にメッセージを添えて置いておく。
”わたしを食べて”
真一郎が甘~いケーキを食べていると、中からさらに甘~いサイズダウンされた祐美子が出てくるという仕掛けだ。もちろん、クリームがなくなれば、祐美子はもとの大きさに戻るようになっている。
翌日高梨は研究所にわざと遅れて出所した。これでも気を効かせたつもりなのだ。
「よう。おはよう真一郎。あれ、ケーキは?」
「ああ、あのリボンのついた箱のこと?おれ、甘いの得意じゃないからさ」
「え?」
「さっきポポにあげてきたよ」
そのとき裏庭から、この世のものとは思えない女の悲鳴が轟いた。