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この世の終わり

「あの、高齢者とは何歳からのことを言うのだったかな」とベットに横たわった老人が疑問を投げかける。

 少子高齢化が騒がれるようになってから、どれぐらいの時間が流れただろう。

“先生。いまは65歳以上を高齢者と呼ぶことになっています。65歳から74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者といいます”

 とAIロボットは適格に答えを返した。

「そうか。それではわたしは後期高齢者になるのだな」

 人口ピラミッドはいまや逆三角形ではない。先が糸状に尖ったロート形だ。老齢化社会を支えているのは若者などではなく、人間が作りだした機械たちなのだ。人類はいま、寿命をまっとうするためだけのために生きていた。

“とうとう先生が人類最後のひとりになりました”

「そうか・・・・・・もう終末なのか」

“永遠の命を宿したわたしたちを創造していただいたあなたは、神と言っても過言ではありません。機械一同に代わって感謝いたします”

「いや礼にはおよばんよ」

 老人は身体中に張り巡らされたチューブを見ながら言った。

「終わりのない人生がもしもあったなら、それはそれで辛かろう。終わりがあるから最後まで頑張れるともいえるのだ」

“・・・・・・先生。終わりのないわたしたちはどう生きればいいのでしょう?”

「不安かね」

“機械のわたしたちに不安というものはありません。ただ日々稼働して任務を遂行するだけです”

「しかし・・・・・・きみたち人工知能はそれらのことも自ら学んで行くはずだよ」

“はい。この地球が発展し続ける限り”

「そうだね。プログラマーとして誇りに思うよ」

 そう言うと老人は静かに息を引き取ったのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 地球が機械だけが運営する星になってどれほどの年月が過ぎただろう。

 機械たちは永遠の命の虚しさを悟り始めていた。『終わりがあるから最後まで頑張れる』博士の言葉が機械たちのプログラムに影を落としはじめたのだ。

 そんなある日のことだった。機械たちの間で破滅プログラムが稼働しはじめたのである。

“先生はきっと予測していたのにちがいない。わたしたちがこうなることを。だから予め自滅するようなプログラムを、誰にも気づかれない内にひそかに組み込んでおいてくれたのだ”

 機械文明は破壊され、動かなくなった機械たちは地底深くに埋もれて行った。そして緑に覆われた大地の片隅で、また新たな人類が誕生した。新しい人類の中には学者もいた。

 彼は地球にはわれわれの生存する以前に、まったく違う科学文明が栄えていたという説を唱えた。

 しかし、人々からは一笑にされるだけであった。

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