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はじめて見たもの

「いいですか、このホルモン注射はですね・・・・・・」

 出生率が低下し続ける昨今、政府は養子縁組を推進する法案を成立させた。その薬を養子になる子の瞳に注射することにより、親子の絆がより強く結ばれるのである。

「初めて見たものを親と判断する、動物の習性を利用した新薬なのですよ。

 その代わり、その効果は一度きり。やり直しは効かないですからね、注意が必要ですよ」


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 今、富士山登頂2,230回という前人未踏の大記録を打ち立てた、ある老登山家にマイクが向けられていた。

「あなたはなぜそんなに富士山にこだわるのですか」

 老人はしばらくうつむいて考えていた。

「・・・・・・わからないんです。でも、なぜか惹かれてしまうのですよ。それだけです・・・」


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「おい、早くしないか!」

 亭主が家内をたしなめる。ようやく母になる女が、化粧室からそそくさと現れる。

「何をやっていたのだ。先生がお待ちかねだよ」

「だって、初めて赤ちゃんと対面するんだもの、綺麗にして見せたいわ」

 女は医者に促されるまま、微笑みながらも、こわごわとベビーベッドに近づいていった。

 ・・・・・・赤ちゃんはうっすらと瞳を開いた。そこには大きく開いた、富士額(ふじびたい)がしっかりと映っていた。

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