「今日は
「わーい。新しいゲーム?」
息子の聡が手放しで喜びの雄叫びを上げる。
「あなた。またそんなものを」と、母は険しい表情をつくった。
「違う。ゲームなんかじゃないよ」
父は包装紙を破いて中身を出した。「図鑑を買ってきたんだよ」
図鑑はちょっとした卒業アルバムぐらいの大きさで、分厚い表紙に王冠の絵が描いてあった。
「ズカン?なにそれ」
聡は興醒めした顔をする。
「教養を身につける為の本のことだよ」
「なあんだ。本か。本ならいっぱい持ってるよ」
「あなた。図鑑と辞書ってどう違うのかしら?」なおも母は怪訝な顔をしている。「家には百科事典があるでしょうに」
「いや、この図鑑は『ZOROZORO図鑑』といって、絵が3Dで飛びだしてくるという最新技術を駆使した新製品なのさ」
「へえ。パパそれのどこがいいのさ」
「たとえばだ・・・・・・」父がページをめくる。「この昆虫の絵を指で押すだろ」
すると写真の上に、立体的な昆虫が出現したではないか。
「おお!」
聡と母が驚いて昆虫を見つめる。父は図鑑を回してみた。それと一緒に昆虫も回り出した。
「普通の図鑑は写真や絵だけだろう。でもこの3D図鑑なら、前後左右上下どこからでも観ることができるのが画期的なところなのさ」
「まあ、あなたこれって面白いじゃない。たとえば海に浮かんだ舟の底も観察できるってことね」
「東京タワーの天辺を見下ろすことだって可能だよ」
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その後しばらく3D図鑑は、聡のお気に入りになった。
「ねえパパ、質問していい?」
「なんだい」
「このひとって偉いんだよね」
「ああそうだよ。昔タレントだったけど、今は立派な政治家なんだ」
「ふうん」
「どうかしたのかい?」
「なぜか裏から見ると、まっ黒なんだけど・・・・・・」