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エレベーター

「とりあえず上にあがりましょう」

 ロボットがうしろからついてくる。

 江麻えまはエレベーター・ボックスに入ると150階のスイッチを押した。

 今や人口の爆発的な増加により、人類は地球のありとあらゆる場所に住居を構えた。そのせいで、現在は成層圏までその活動区域を伸ばしているのである。地表から20kmから40kmの空間に、島々が浮かんでいる。人々は高速エレベーターで地表と空の土地を往来しているのだった。

「空調が効いていないのかしら」

 江麻はひたいの汗をぬぐった。成層圏では太陽に近づくので、上に行けば行くほどに温度が上がっていく。そして空気も薄くなっていくのだ。

「メインコンピュータニ調整要請ヲダシテオキマス」と、ロボットが言う。

「お願い」

 江麻が苦しそうに、胸の第一ボタンを外した。エレベーターとは言っても、外見は透明なチューブ状の筒である。外から中の様子が丸見えなので、うっかり上着を脱ぐこともできないのだ。

 地表と空中都市、空中都市から空中都市へはすべてこのチューブ状の筒で移動ができる。エレベーターは縦横無尽に配備されているので基本的に他人との乗り合いはしないことになっている。長時間に渡る密室での気まずさを回避するためだ。

 エレベーターは150階を通り過ぎて昇って行く。

「おかしいわ。150階が最上階のはずよ」

 江麻が焦って上空を見上げる。

「オカシイデスネ。エレベーターガ制御フノウデス」

「キャンセルボタンは」

「ハンノウシマセン!コノママデスト成層圏ヲツッキッテシマイマス」

「そんなこと・・・・・・私たち焼け死んでしまうわ」

「メーデーメーデー。管制室オウトウネガイマス。キンキュウ事態ハッセイ。キンキュウ事態ハッセイ・・・・・・。江麻サン、モシモ地表ニオチタトキニハ、エレベーターガ地面ニセッチスル前ニジャンプスルコトヲオ忘スレナク」

「バカ!こんなときに冗談言ってる場合」

 そのとき、エレベーターが停止してドアが開いた。そこには金色に輝く小柄な男達が立っていた。

「あれ?地球人が乗っていますよ」

「あなた達だれ?」

 江麻がロボットの影に隠れて訊ねた。

「隊長。やっぱり地球人のようです」

 そう言ったひとりの男が江麻に説明をしてくれた。

「わたしたちは金星人です。金星の人口過多を避けるべく、宇宙にコロニーを作りつづけて来た結果、どうやらうちのエレベーターとおたくたちのエレベーターが繋がってしまったようですね。これでだいぶ経費削減が可能になりました」

「ドウイウ意味デショウカ」

 とロボットが訊いた。

「だってUFOを使わなくても簡単にエレベーターで地球観光ができるからさ」

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