“神は初めに、天と地を創造された”・・・って、ぼくは神なんかじゃないんだけどな。そうつぶやきながらユピは“太陽系宇宙水槽キット”をのぞき込んだ。
「あーあ、またはじめからやり直しだよ。なんでこう人間てやつは、自分で自分の住処を破壊したがるのかな」
そこへ母のピータがお菓子をもって、部屋に入ってきた。
「ユピ。夏休みの宿題は終わったの?」
「母さん。この『人間観察記』で終わりなんだけど、またこいつらケンカしやがったのさ」
「あら困ったわねえ。いつになったら成長するのかしら」
母と話しているといっても、お互いに言葉を発しているわけではない。ぼくらは心の中で思ったことを念じて伝えるだけなのだ。
「なにか間違っているのかな。ちょっと見てて」
太陽系宇宙水槽キットというこの教材は、標準で宇宙と地球が配置されている。
まずは光源を当て、昼と夜を作った。次に空と大地を分けて、地続きだと生物が育たないので海を配することにする。
すると大地に植物が生えはじめた。先ほどの光源だけだと、生物が夜は真っ暗で活動ができない。そこで月と星を作る。月は地球を観察する便宜上、表面だけを地球に観せて周るように調整する。これが結構難しい。
そうこうしているうちに、海には魚が泳ぎ出し、空に鳥たちが飛ぶようになる。
「あら、すてきじゃない」
母はこういう自然の風景が大好きなのである。
魚と鳥が生育すると、今度は大地に猛獣と家畜が生まれる。これで準備は完了だ。最後に“人間”という形をした生物に、エネルギーを注入して出来上がりである。
「そろそろ、お茶にしましょう。ユピはどうして毎回観察に失敗しちゃうの?」
「こいつらはね、どうしても最後に核を使いたがるんだよ。そのおかげで地軸が大幅にずれるんだ。南は北に、東は西にって具合にね」
「仲が良くないのね」
「そうなんだ。だからお互いコミュニケーションが下手だから、変に意思疎通を図らないように言葉も変えてるんだよ。それでも最後には核兵器をつかって滅亡して、せっかくの地球がまっさらな状態になっちゃうんだ」
「注入したエネルギーはどうなるの。また悪さをした星から提供をしてもらうとか?」
「身体から抜け出したエネルギーは、回収して洗えば使用可能なんだよ。そうすると今までの記憶はなくなるから、最初から実験を始められるってわけ」
「ふうん、観察日記をつけるのも大変なのね」
「まあね。人間にはいつも苦労させられるよ」
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「パパ。またキットの中のユピって子がしくじったみたいよ」と、ララがぼやく。
「どれどれ」
“銀河系宇宙水槽セット”を父親のロモがのぞきこむ。
「ああ、この太陽系セットの“人間”という生物を更生させるのは至難の業なんだよな。このユピっていう実験体は根気がいる作業をやってるんだね。これが成功したらララの観察日記も終わるのにな」
水槽から顔を上げるとロモは言った。「知ってたかい。人間の家族のことを最近世間では“核家族化が進んでいる”って言うんだそうだ」
「それ観察日記に書いとこう。人類は核家族化が進んでいます・・・と」ララが顔を上げる。「ねえパパ。この核の使い方間違ってない?」
「いや」
ロモは苦笑いする。「使い方を間違っているのは人間の方だよ」