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富士山大噴火

 富士山の標高は3,776m。日本一高い山である。

 日本最古の和歌集『万葉集』には「田子の浦ゆうち出てみれば真白にぞ 富士の高嶺に雪は降りける(山部赤人)」という歌がある。

 これは「舟で田子の浦を通過して広大な海に漕ぎ出してみたら、富士山の頂上に真っ白な雪が降っていたんだよ」という意味の歌である。

 が、これに対して作者は不明であるが、反歌で「燃ゆる火を雪で消し、降る雪を火で消しつつ・・・・・・」という短歌がある。

 この歌の意味は、富士山が噴火した炎を降り注ぐ雪が消し、今度はその降りそそぐ雪を噴火の炎が消すという富士山の噴火活動を歌ったものと言われている。

 さらに西行が『新古今和歌集』で「風になびく富士の煙の空に消えてゆくへもしらぬ我が心かな」と、富士山から煙がたなびいている風景を歌っているのだ。

 これらのことからも、富士山がつい最近まで火山活動をしていたのは明らかだ。


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 横浜在住の竹下小夜たけしたさよは、幼いころにぼくのおじいさんに孤児として拾われた。ぼくは両親を早くに亡くしていた。そんな境遇下、ぼくは兄として泣き虫の妹をいつも守ってきたのである。

 小夜は大人になるにつれて、日増しに美しい娘へと成長していった。そんな小夜の気を引こうとして、街灯に群がる虫のごとく近隣から良からぬ男どもが集まってきた。その度にぼくは彼らを蹴散らす毎日だった。

「お兄ちゃん。乱暴はいけないわ」

「なにが“小夜ちゃんの親衛隊”だ。そんな甘い顔ができるか。見ろあのスケベ根性丸出しの男たちの顔を」


 そんなある日、大地が歪んで激しく揺れ始めた。

「お兄ちゃん!」

 小夜が腕にしがみついてきた。南海トラフ大地震の始まりである。一斉にテレビが富士山の火山活動を報道し始めた。


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 関東ローム層は12万年前に富士山の火山灰が堆積して出来た土地である。今、再ふたたびそれが始まろうとしていた。富士山から立ち昇った黒い灰が、まるで弾幕でもばら撒くかように関東に向かって降り注ぎはじめていたのである。

 “首都滅亡”そんな言葉がささやかれるようになった。


「おじいさん、おばあさん、それにお兄ちゃん。長い間ありがとうございました。わたし、行かなくては・・・」

「行くって、どこへじゃ」

 おじいさんがうろたえ、おばあさんはおろおろしている。小夜はテレビに映る煙の上がった富士山を指さした。

「なぜだよ。そんなの無理に決まってるだろう」

 ぼくは訳がわからず妹を制止しようとした。

「だめなの。わたしが帰らないと収まらないのよ」

「小夜お前は・・・・・・」

「本当の名前はNARA。遠い星から来たの。日本を救えるのはわたしだけ。お願い。お兄ちゃん協力して。おじいさん、おばあさん長いあいだありがとうございました」

 そういうと小夜は、床に手をついて深々と頭を下げた。


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 ぼくは四輪駆動車で富士山の道路が切れるところまで登って行った。途中警察の封鎖に阻まれたが、小夜の親衛隊が身を挺してぼくと小夜のために隙間をこじ開けてくれたのである。

「みなさん。ありがとう」小夜は大きく手を振った。

「なあに、姫のためならこれしきのこと」

 小夜の親衛隊を名乗る男達が白い歯を見せて笑った。それを駆けつけた警察隊が雪崩を打って抑えつけようとしていた。

「あいつらを少し見直したよ」ぼくは親衛隊と警察官の揉み合いを見ながら言った。「本当に小夜のことが好きだったんだな」


 火山灰が降り注ぐ中、ぼくと小夜は頂上へと登って行った。途中落石がすぐ脇をカミナリのような音を轟かせて落ちて行った。

 小夜とぼくはとうとう頂上にたどりついた。すると火口から音もなく光る物体があがって来た。直径50メートルはあるだろうか。

「お兄ちゃん、ありがとう。さようなら」

 小夜は光の中に消えて行った。

 円盤型の光はさらに上昇すると、光線を富士山の火口めがけて放射した。その瞬間、火山活動で揺れ動いていた地盤が嘘のように止まった。あたりに静寂が戻っていた。

 それを確認し終えたかのように、静止していた光る物体がみるみる上昇していく。


 ぼくはありったけの大声を上げた。

「小夜お!NARAあ!」

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