「確かに聴こえたんです」
「船長。きみは疲れているのだ。家に帰って少し休みたまえ」
「でも、たしかにあれは何かのうめき声でした。宇宙には得体のしれない何かがいるんじゃないでしょうか」
宇宙探索から地球に帰還した乗組員が、指令室に報告をしに来ていた。
「疲れた時には山にでも登るといいぞ。自然の音は心を安らげてくれる。小川のせせらぎ、鳥のさえずり。そうだ、海でさざ波の音を聴くのもいい・・・・・・どれもアルファ波が出ているそうだからな」
「しかし室長。あれは明らかに不気味なうめき声でした」
「もういい!いいか船長。音というのは空気が振動するから起きるのだ。空気のない宇宙では音など起きようがないではないか。わかったらさっさと家に帰りなさい」
船長はまだ何か言いたげだったが、最後には首をうなだれて指令室を出て行った。
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後に残されたのは室長と事務官のふたりだけだった。
「室長。船長は本当に何か聴こえたのでしょうか」
「聴こえたさ」
「え?」
「あのときおれはマイクのスイッチを切り忘れていた」
「・・・・・・といいますと」
「おれはあのとき上機嫌でアメリカ国家を歌っていたんだよ。それをあの野郎、何かのうめき声だと抜かしやがったんだ!」