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星の王子さまたち

 星の王子さまは言った。

「ぼくは死んだように見えるかもしれないけれど、でもそれは本当のことじゃないからね・・・・・・。わかるかな。ぼくの星はとても遠くて、この身体は重すぎて持って行けないんだ。古い殻を脱ぎ捨てるようなものさ」

 そしてこうも言った。「ぼくにはある種の責任があるんだ!あの花はとっても弱いから!世間知らずだし。世界に立ち向かうのに役立たずの4本のトゲしか持っていないんだから・・・・・・」


 王子さまは古い殻を脱ぎ捨てて星に帰って行った。

 やがて世間知らずの4本のとげはリバプールというイギリスの街に生まれた。彼らは大人になっても子供の心を忘れることがなかった。物事を心で見ることができたのだ。彼らは一見、ただのツッパったバンドマンにしか見えなかった。それが瞬く間に音楽シーンを塗り替えるほどのアーティストとして開花する。


 最初の彼らのデビュー曲は作曲家が書いたものになるはずだった。

「そんなクソみたいな曲はごめんだ」

 彼らは自分たちで作詞作曲した『ラブ・ミー・ドゥー』でデビューした。『ラブ・ミー・ドゥー』はミュージック・ウィークリー誌の17位まで上がったが、たいしたヒットにはならなかった。それでも彼らは満足だった。

 そして2曲目の『プリーズ・プリーズ・ミー』からは、連続1位を獲得する快進撃が始まったのである。


 彼らは大衆が何を欲しがっているのか分かっていた。ひとまねでない、オリジナルの曲と詞。ひとがあまり使っていないマイナーなブランド楽器。ひとと違う髪型。ひとと違うスーツ。ひとと違う価値観と言動。ひとと違う美しいコーラス、そしてビート。

 彼らは独自のスタイルを持ってアメリカにもコンサートに出かけた。当時のアメリカでは、白人と黒人の席を柵で明確に分けていた。

 王子さまのひとりが言った。

「ぼくらがコンサートを演る条件はただひとつ。あの柵を撤廃することだ!人種差別なんてくだらないよ。同じ人間なんだからね」

 彼らのコンサートは、熱狂的なファンの声援で演奏を聴くことすらできなかった。観衆は黄色い声援を聞くためだけに、高いチケット代を支払ったのである。

「もうひと前で歌うのに疲れた」

 彼らはライブで歌うをやめ、スタジオでのレコーディングに専念することにした。そこで生まれたのが『サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド』という長い名前のコンセプト・アルバムだった。このLPレコードは現在でも最高傑作と言われている。

 ある評論家は言った。

「今後、誰がどんなにうまく演ったとしてもビートルズの亜流になってしまうだろう」

 それに対してメンバーは言った。

「今までぼくらとまったく関係ないと思っていた人たちが、知らない間にぼくらの信奉者になっていたんだ」

 それまでビートルズをただうるさくて不潔な集団だと非難していたひとたちが、てのひらを返したようにめはやし出したのだった。


 大人は誰だってはじめは子供だ。でもそのことを忘れないでいる大人はいくらもいない。その数少ない大人がビートルズだった。

 いま、彼らの一部が殻を脱ぎ捨てて旅立ってしまったけど、ぼくらはいつまでも忘れずにいたいと思っている。

彼らが教えてくれたこと。本当に大切なことは、目に見えないことなんだ。

「All you need is love!(愛こそはすべて!)」

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