人類で初めて空を飛んだのが誰なのか、あなたは知っていますか?
2003年12月17日。アメリカ合衆国ノースカロライナ州にある小さな町で百年記念祝賀会が開かれていた。
百年前の今日、人類初めて有人動力飛行を成功させた場所がこの町キルデビルヒルズと言われているのだ。
「盛り上がりますな、町長」
世話役のベンがロドリックに言った。
「うむ。この祝賀会の目玉はなんと言っても、当時のレプリカの飛行機が大空を飛び回るところだからな」
「報道陣も詰めかけています。これは楽しみですね」
「これでわが街、キルデビルヒルズがまた有名になることだろう」
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ヴァイスコプフは大柄なドイツ人だ。彼は子供の頃に
「ねえ、ヴァイスコプフさん」助手のファンクが彼に言った。「ナンバー21(21番目の試作機)』のエンジンのことですが」
「なんだね?」
「あの、すみません。その前にあなたのお名前を呼ぶ度に舌を噛みそうになるんですよね」
「ああそうか。アメリカ人には発音しにくい名前だものな・・・・・・そうだ、これからはホワイトヘッドでいいよ」
「ホワイトヘッド?」
「ああ。ヴァイスコプフというのはね、ドイツ語で“白い頭”という意味なんだ」
「それじゃあホワイトヘッドさん。ナンバー21の離陸用のエンジンの出力についてなんですが、やはり10馬力が妥当ではないでしょうか」
「そうなのか」
追い風を利用して離陸するライト兄弟のライトフライヤーと違い、ナンバー21は自力で離陸する機能を持ち合わせていた。
「それ以上になると機体に負担がかかります」
「よし分かった。それじゃあプロペラを回す2台のアセチレンエンジンは20馬力で行こう」
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「それでは行くぞ!」
ライトフラヤーが複葉機であったのに対し、ホワイトヘッドのナンバー21は単葉機だった。竹と針金を骨組みとした翼の幅は11mもあり、軽い絹が貼られていた。
ナンバー21の車輪とプロペラのエンジンが轟音を響かせながら駆動しはじめる。ホワイトヘッドが乗った機体は徐々に浮き上がり、地上15mの空中を約800m飛行することに成功した。
「しまった。カメラを持ってくればよかった」
ブリッジポート・ヘラルド新聞のハウエル記者がその様子を取材に来ていたのだ。まさか本当に空を飛ぶとは思いもよらなかった。後日彼は、その時の様子をスケッチに残している。
これはライト兄弟が空を飛んだとされる2年前、1901年8月14日の出来事であった。
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1903年12月17日。キルデビルヒルズにて、自転車屋のウィルパー・ライトとオービル・ライトの兄弟が、人類初の有人動力飛行に成功したというニュースが大々的に報じられた。
当然ホワイトヘッドは抗議を申し入れたが、それには詳細な実験記録と写真などの証拠を提示する必要があった。
ホワイトヘッドはそれまでそういう類いの記録を用意をして実験したことがなかった。あるのはハウエル記者などの証言とそのスケッチだけだったのである 。
商才に優れたライト兄弟はすぐに動いた。スミソニアン学術協会の運営する博物館に対し、ライトフライヤー機を寄贈する代りに、今後自分たち以前の飛行に関する記録を一切取り扱わないという契約を結ばせたのである。
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「紳士淑女の皆さん。それでは最後に当時の飛行機による記念飛行を行いたいと思います。滑走路にご参集ください!」
スピーカーから案内が流され、人の波が滑走路に流れて行った。そこにはライトフライヤーとナンバー21の復元機が、昔ながらの雰囲気を醸し出して待機していた。
「それではご注目ください。この2機が空に飛び立ちます!」
エンジンが始動しはじめた。
詰めかけた大勢の航空ファンや報道陣が一斉にカメラを構える。追い風に乗ってライトフライヤーが加速しはじめた。そして車輪の回転とともにナンバー21も滑走をはじめた。あたりに轟音が響き渡る。2機は徐々に浮力を得て、地上から浮き始めた・・・かに見えた。
ライト兄弟のライトフライヤーは失速し、そのまま地面にたたきつけられ大破してしまった。それに引き換えホワイトヘッドのナンバー21は、まるでそれを飛び越えるかのようにして大空高く飛び立ったのだった。
現在アメリカのコネティカット州議会は、ホワイトヘッドの偉業を公式に認定している。そして世界の兵器情報誌『ジェーン年鑑』においても、人類初の有人動力飛行に成功したのはホワイトヘッドであると明確に記されているのである。