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第11話 怪しい勧誘

「強くなるための特訓メニューは後日考えておくので、氷河くんは、体調を整えておいてくださいね〜♡」


 生き霊さんが考える強くなるための特訓って、一体なんなんだ……? 何をさせられるのか、今から怖い……。壮絶な体験を経た翌日。俺は、今まで以上に周囲を警戒しながら登校した。特に変わったことはなく、ひと安心した時だった。


「うっ……。またか……」


 下駄箱を開けた時、白い物が見えた。昨日と同じ封筒だ。中を開けて読んでみると、あの時と全く同じ文字で、全く同じ文章が書いてあった。この手紙の差出人は、絶対あの人だよな……?


「木ノ瀬さんか……。どうする……?」


 オカルト研究会の木ノ瀬和良さん。恐らく、生き霊を見ることが出来る俺の能力を買って、勧誘を決意した……と、そんなところだろう。


「生瀬さんの好意が続いていると分かった以上、あんないろんな意味で危険そうな人に近寄るのは控えるべきだろう……。しかし、無視するというのも気が引ける……」


 屋上でポツンと、寂しく待ち続ける木ノ瀬さんの姿を想像してしまう。一方的に待っているのだから、俺が気に病む必要はないのかもしれないが……。


「こういう優柔不断な態度が、浮気に繋がるのだろうか……」


 物凄い罪悪感を抱えながら、仕方なく屋上へ向かうことにした。昨日の木ノ瀬さんの感触を思い出しそうになり、すぐに頭を振って記憶を消し去る。毅然とした態度で、キッパリ言ってやろう。


「北極氷河くん。来てくれないかと思っていました」


「はぁ……。木ノ瀬さん、もうこういうのはやめてください……」


 相変わらず、ミステリアスな雰囲気を漂わせ、木ノ瀬さんは微笑みながら立っていた。何故わざわざ屋上に呼び出すのか……。


「それで、決心はつきましたか?」


「あの、昨日も言いましたけど、オカルト研究会には入りませんから……! 正直に言いますが、俺はそういうのが苦手なんです!」


「いつも生き霊と一緒にいるのに?」


「あれは……。えっと、たまたまです……!」


 生き霊さんのことを持ち出され、言葉に詰まってしまった。木ノ瀬さんから見れば、確かに不思議な光景だろう。オカルトが苦手と言いつつ、霊と一緒にいるというのは。


「それなら、オカルト研究会に誘うのは諦めます。……でも、わたくしはあなたのことは諦めません」


「ど、どういう意味ですか……!?」


「北極氷河くん。わたくしには、あなたが必要なんです。その身をわたくしに委ねて欲しい」


「はぁ……!?」


 言ってる意味が分からない! 勧誘は諦めると言いながら、俺のことが必要って……。それに、身を委ねるってもうめちゃくちゃだぞ……!


「お、俺には、好きな人がいますから……!」


「それって、生瀬涼子のことですか? それとも、生瀬涼子の生き霊のことですか?」


「な……!?」


 胸に杭が突き刺さったような、そんな感覚に襲われた。今まで目を背けていたことに、無理やり首を掴まれて、しっかりと凝視されられているような……。苦しくて、逃げ出したい問題に、直面させられている。


「やめた方が良いですよ。生き霊に恋をするのは」


「ちがっ……! 俺が好きなのは、生瀬さんで……。生き霊のことは……」


「生き霊のことは、嫌いなんですか?」


「うぐッ……!!」


 嫌いな訳がない。ちょっとうるさくて、自分勝手で、テンションが高いけど……。包容力があって、頼りになって、とても可愛い人なんだ。俺は、そんな生瀬さんの生き霊さんのことが好きなんだ……!


「生き霊は確かに本人そのものです。でも、本人が生き霊と全く同じかというと、そんなことはない。誰しも、自分の本心は隠して生きているものです。それは、実際に生き霊と接している、あなたが一番理解しているのではないですか?」


「そ、それは……。でも、俺は……」


 何も言い返せない。俺は、生瀬さんのことが好きと言いながら、彼女のことについては知らないことだらけだ。そんな状態で生き霊と接していると、ギャップに面食らうことも多い。


(何が正解なんだ……。俺はどうすればいい……?)


 ぐるぐると、思考の迷路にハマる。どっちも生瀬さんのはず。生き霊さんが好きなら、生瀬さんのことも好きなんだと、そう思っていた。俺は、間違っているのか……?


「……来てしまいましたね。もう少し、話をしたかったのですが」


「えっ……!?」


 校舎の下から、ピンク色の光が空高く飛び上がった。生瀬さんの生き霊さんが、上空から木ノ瀬さんを睨み付けていた。


「氷河くんから、離れなさいっ!」


「初めまして、生瀬涼子さん。わたくしは木ノ瀬和良。以後お見知りおきを」


 生き霊さんの色が、徐々に黒いオーラへと変わっていく。まるで、あの不良に纏わり付いていた影のように……。


「氷河くんっ! どういうことですか!? なんなんですか、あの人は!?」


「い、生き霊さん! 違うんです! これは、誤解です……!」


「ふぅ……。仕方ありません。北極氷河くん。話の続きはまたいずれ」


 俺と生き霊さんを残し、木ノ瀬さんは颯爽と立ち去っていった。本当に何を考えているのか分からない人だ……。


「氷河くんに手を出そうなんて、とんでもない人ですっ! 氷河くんも、何をこっそり女の子と密会してるんですかっ!」


「す、すみません! こっそりというつもりはなくて! オカルト研究会に誘われてしまって、それを断ろうとしてただけです!」


 黒いオーラを発生させながら、怒りを露わにする生き霊さん。俺は、なんとか正直に話をして、納得してもらうしかなかった……。分かってくれたのか、生き霊さんの色は、徐々に元の綺麗なピンク色へと戻っていた。


「はぁ、話は分かりました。だけど、氷河くんは何者かに狙われているんですから、もう少し身の回りに注意してくださいね!」


「は、はい……!」


 怒った生き霊さんは、なかなか怖い。本人と話す機会があった時は、絶対に怒らせないようにしよう……。そう心に誓った。


「それでですね。私の方も氷河くんに話があったんですよ〜。実は、先日言っていた特訓の件ですが、妙案が浮かんだのですっ!」


「みょ、妙案……?」


 生き霊さんは、ウキウキとした笑顔で話し始めた。楽しげな生き霊さんの様子とは裏腹に、俺の心は不安な気持ちでいっぱいだ……。嫌な予感しかしない。


「氷河くん、デートしましょうっ!」


「…………デ、デート?」

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