目の前でミルクティーを飲む男性を見て思う事は、急にやって来て上から目線で偉そうな態度を取る不審者という印象しかない。
アキの紹介で来た人らしいから栄花騎士団の最高幹部なのだろうけど、ケイといいこの人といい……個性的な人が多い気がする。
いや……この人とケイを比べるのは彼に失礼か……
「あの……」
「飲み終わるまで待てないのか貴様は……」
「ここだと周りの人の迷惑になると思うから場所を変えませんか?」
ぼくがそういうと彼は無言で立ち上がりティーカップを片手に何処かへ歩いて行く。
機嫌を損ねてしまったのだろうか……もしそうなら謝らないといけない。
「ごめんなさい、怒らせるような事をしてしまったみたいで……」
「……?いや、場所を変えると貴様が言ったのだろう?そこの店で軽食を食べようと思うのだが……嫌だったか?」
「怒ってないなら良いんだけど……」
急いで付いて行き謝ると怒ってない所か、何を言ってるんだこいつはと言いたげな顔で話ながら最近新しく出来たらしい飲食店を指差す。
何なんだろうこの人は……ぼく以上にコミュニケーションが取れないじゃないか。
そんな事を思っていると、一人でお店に入って行こうとしてしまうので慌てて後ろについて行く。
「いらっしゃいませー!後でご注文を聞きますのでお好きな席についてメニューを見てお待ちくださいっ!」
店内に入ると元気な声が出迎えてくれる。
……この町に来て外食何て初めてだからどうすればいいのか分からないけど、彼に合わせておけば大丈夫だろう。
「そこのテーブル席にするか……貴様も来い」
そういうと二人用の小さなテーブルが置いてある席へ座りぼくが来るのを待つ。
ぼくの意見を聞いてこうやって場所を変えてくれたしもしかしたら良い人なのかもしれない……?
いや流石に簡単に相手に心を開きすぎだろうかと自問自答しながら彼の対面に座る。
「貴様の言うように場所を変えたが……まずは自己紹介と行こう。私はアキラ、栄花の文字で晶と書いてアキラだ」
「ぼくはアキラさんが知ってる通り、レースです……」
彼はそういうと懐から紙を取り出し自身の名前を書いて見せてくれる。
栄花では独特な名前を使うと言うけど、一つの文字で名前を表すのは実際に見ると困惑してしまう。
「……取り合えず先程の話の続きなのだが……、アキに貴様の雪の魔術を戦闘に使える練度まで高める手助けと将来的に我々の仕事に付き合って貰う可能性があるから鍛えてくれと頼まれたのだが貴様は何処までの強さが欲しい?」
「伸び悩んでいたので助かります……ですが、仕事に付き合って貰うとはどういう事ですか?」
「……む?アキから聞いていないのか?」
アキラが困惑した顔で懐に手を入れるとぼくが持っているのとは違う端末を取り出し何かを操作しだした。
それと同時に先程の元気な声で出迎えてくれた店員さんがやって来てぼく等に注文を聞きに来る。
「ご注文をお伺い致しますー!お決まりでございますか?」
「……取り合えず、珈琲を頼む砂糖をたっぷりと入れてくれ、大体角砂糖10個位だ」
「えぇっ!?……か、かしこまりましたっ!お連れの方は、あれ?先生じゃないですか!……先生ってダートさんと一緒にいるイメージしかなかったので以外ですがお友達いらっしゃったんですね……。あ、ごめんなさいご注文をどうぞっ!」
「同じので良いです……、でも砂糖は入れないでください」
「はーいっ!かしこまりましたっ!」
店員さんはそういうと注文内容を復唱して足早に立ち去って行った。
それを確認したアキラは端末を操作するとテーブルの上に置き通信ボタンを押す。
暫くして端末から腰までの長さの赤い髪を後ろで三つ編みにした男性の映像が現れ声が聞こえてくる。
『おぅっ!アキラどうしたぁ!!』
「すまないハス……これはアキの端末では無かったか……?」
『これは俺の端末だぜ?……さてはお前3番と6番押し間違えたな?またやっ……』
咄嗟に手に取り通信を切ると何事も無かったかのように端末を操作して再びテーブルの上に置き通信を開始する。
今度はアキの姿が表示されて懐かしい声が聞こえてくる。
『あの、先輩どうかしたのですか?』
「アキ……貴様からレースが将来我々の仕事を付き合うという話を聞いていたから話したが……聞いていないと言われたのだが……?」
『え?あっ!あぁぁっ!?レースさんに言うの忘れてたぁっ!お兄ちゃんどうしようっ!私またやっちゃったっ!』
アキがこんなに慌てる姿を始めてみる……、あの時の彼女は真面目なイメージがあったけどこんな一面があったのか。
アキラは無言で通信を切るとぼくの顔を見て口を開く。
「という事だ……この度はこちらの不手際で迷惑をかけてしまい申し訳ない。」
「あぁいえ……驚きはしたけど大丈夫です」
「ご注文の品をお持ち致しましたーっ!あのぉ……店内で騒がないようにお願い致しますー。」
「……すまなかった気を付けるとしよう」
アキラは頭を下げるとお礼を言って珈琲を受け取る。
ぼくもそれに習い受け取り彼が頼んだ珈琲を見ると砂糖を入れ過ぎてドロっとしている液体があって見ているだけで胸やけがしそうだ。
「あの……それ飲むんですか?」
「あぁ、頭を使うと糖分が不足するからな……所で改めて聞くが貴様は何処までの強さが欲しい?」
「何処までと言うと難しいのですが……、ぼくの好きな大切な人を守れる力が欲しいです。もう二度と傷つけたくないから強くなりたいんです」
「ほぅ……聞いていて恥ずかしくなるが良いだろう。それなら貴様を私が納得するまで鍛えてやる」
彼はそういうと珈琲を一気に飲み干し席を立つとぼくの腕を掴み強引に立ち上がらせて店を出ようとする。
何か……ダートと会ってから彼女にも腕を引っ張られたり、強引に移動する事が増えた気がするな……。
そんな事を思いつつもその強引な行動は如何な物かと思う……腕が痛いし。
「あっ!あのお客様っ!退店なさる時はお会計をっ!」
「……?あぁすまない、ここは栄花では無かったのだったな……これでいいか?釣り銭はいらん」
「あ、ありがとうございま……お客様ぁっ!?多すぎま……お客様っ!?」
……懐から栄花の刻印が付いた金貨を渡すと足早にぼくを連れてお店を出ていく。
そのままぼくの腕を掴んで強引に町中を移動するけど、何処に連れて行くのだろうか……、ダートを置いて何処かにそのまま行ってしまったら彼女が心配するだろうし何よりもぼくがあの子を一人にしたくない。
そんな事を思いながら引きずられているうちに町から出てぼくの家がある山に入ると同時に腕から手を離されてその場に倒れ込んでしまう。
その瞬間に金属同士がぶつかる音がして咄嗟に顔を上げると短剣を手に鋭い眼光を向けるコルクと魔力を指先に灯して魔術を使う準備をしているダートに、氷のように透き通った刀を持ったアキラがいた。
『あんたっ!レースをどうする気だっ!』コルクはそういうと彼に飛び掛かって行く……どうしてこうなったのだろうか……。