あっという間に通ってきた道を戻って行く。
ぼくの腕を掴んで勢いよく走りながら……、腕が痛いけどそれ以上に普段は出さない速度で走るから脚も痛い、高速で流れる景色にこの人は本当に人なのだろうか?と疑問を覚えてしまう。
それ以上に助けた恩人にする扱いなのだろうかと言うやりきれない気持ちがふつふつと湧き上がる。
この人は何なんだろう……蛮族か何かだろうか?
「おぉっ!家が見えて来たな!ここか?ここがお前の家か?そうだろ!」
「そうですけどっ!、いい加減離してください!」
元気の良い声に思わず声を荒げてしまう。
まさか家まで引っ張られて戻る事になるとは思わなかった。
それに匂いで来た場所を辿るとか鼻が利く獣人や動物ではあるまいにとは思うけど、ぼくの匂いはそんなに分かりやすいのだろうか?
毎日ちゃんと清潔にしている筈なのになぁっと内心ショックを受けていると、少女がしゅんっとしてうつむきながら声を出す。
「おっおぉわりぃ…腹減ってんと我慢出来なくてよぉ…」
申し訳なさそうな顔をしてお腹をさすっているけれど、この人は本当に何なのだろうか?
眼の前で倒れたと思えば急に立ち上がり、ぼくを引き摺っていく。
顔立ちはかわいらしくて、声も鈴が鳴るように綺麗なのに……この行動のせいで印象が悪いのはどうかと思う。
とはいえ先程まで倒れていた人だし、相手はどう見てもぼくより歳下の少女だ……、師匠にも昔女の子には優しくしろと口酸っぱく言われたし大目に見てあげた方が良い気がする。
「黙ってどうしたんだよ?」
「あぁすいません、考え事してました……」
少女はキョトンとした顔をすると、下からぼくの顔を見上げて心配そうな顔をする。
なんていうか……、表情が良く動く人だなと感じてしまう。
「ならいいけどよ……早く家に入れてくれよっ!もう腹が減ってお腹と背中がくっついてなくなっちまうよっ!」
「そうですね、まずは何か作りましょうか」
「にししっ!早く頼むぜぇ?何でもいいから早くなぁ!」
満面の笑みで笑う少女を見て本当に表情がころころと良く変わる人だと感じる。
何ていうか可愛らしい人なのかもしれない、まずは本人の希望通りなんかしら食べさせてあげて落ち着いたタイミングで話をしよう。
僕はそう思いつつ家のドアを開けて家へと招き入れることにした。
「おぅ!悪いなお邪魔させてもらうぜー?」
「え?ちょっと!危ないから走って入らないでください!」
彼女は元気に家の中に駆け込んでいく、可愛らしいと思った気持ちを早くも取り下げたい気持ちに襲われる。
何なんだろうこの人は本当に、とはいえ入ってすぐのところがリビングだから問題無いと思うけれど奥に行かれたら嫌だな、特に干してる最中の薬草類とかもあるから勝手に触れて欲しくない。
「おっ良いとこにテーブルと椅子があんじゃん!ここで待たせて貰うから飯早くしてくれよ?」
リビングの方から元気な声が聞こえて来た。
どうやらちゃんと大人しく待ってくれるらしいと思うと良かったと胸を撫で下ろす。
とりあえずぼくも家に入ろう家主のぼくがいつまでも外にいるのもおかしいだろう
「直ぐに用意しますのでそこで待っててくださいね」
「おぅっ!待ってるぜ?」
リビングに入りながら声をかけると待ち遠しそうに椅子に座り体を左右に揺らしながら笑顔で返す姿が見えて一瞬だけど見惚れてしまう。
「ん?どうしたよ?飯はつくんねーの?」
「いえ……、何でも無いです」
「そっかぁ?それなら早く頼むぜー?」
「えぇ……取りあえず簡単なの作るので待っててくださいね」
声をかけられて我に返りご飯を作る支度を始めた。
それに先程倒れた人だと思うとやはり何らかの異常が合ったら心配だから、体に良い物を出してあげるとしようかな?
……料理を作り始めるぼくは久しぶりに誰かと食べる料理が楽しみでしょうがなかった。
非常識な人であれど誰かとこうやって食事をするのは楽しいってことを思い出させてくれる。
ただいつ自己紹介しようか?とタイミングを失っている気がした。