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第13話

『ギャーーー』

魔物の断末魔が聞こえ、ゆっくりと魔物は地面に倒れ込んだ。


「やったか?!」

護衛の言葉と同時に、魔物は黒い霧となって消え失せる。


「凄い!私達の出る幕はありませんでしたね」

もう一人の護衛は少し興奮した様子でそう言った。

司祭はそれを横目に紙に何かを書き込んでそれを聖騎士に見せる。聖騎士もそこへ何かを書き足した。


「さっきはすまない。ありがとう。初めて見る個体だった」

護衛が先程手を掴んだ聖騎士に礼を言う。聖騎士は少しだけ頷いた。


「その紙は?」

私の質問に、司祭が答える。


「あぁ、魔物の数を書かなきければなりませんので。それと倒した数。あとは魔物の強さですが、そこは聖騎士にお任せしてますよ」


「なるほど……それで点数がつくって言っていたものね」

私が頷くと、前を歩く護衛が振り返った。


「普通に私達が首を刎ねたり物理的に魔物を倒すと、魔物の死骸は残ったままになりますが、聖なる力を使うとこうして跡形も残りません」


「へぇ……そうなんだ」

私は本にも書いていなかった事実を知る。

少しだけワクワクした。だから、昨晩私が倒した魔物も黒い霧となって消えたのか……。


私はふと……少し前に読んだ物語を思い出した。あれはこの国に伝わる伝承を元に物語にした物だったが、あれが史実なのか、単なる言い伝えなのか……私は気になっていた。


私達はまた森の奥へと歩みを進める。歩きながら私は司祭に尋ねた。


「ねぇ……魔女の森って……本当にその昔魔女が住んでいたの?」


『魔女』

魔女の存在はこの国ではまるでおとぎ話の様に言い伝えられていた。

魔王とは違い人間を襲う様な事はないが、魔の力により、怪しい薬や怪しい道具を生み出す老女。

人々はその魔の力に魅入られてしまう為、この国はその昔、魔女をある森に閉じ込めたのだという。

ただ実際に魔女の姿を見たという者はなく、未だにそれはまるで想像上の生き物の様に語り継がれているのだが、『魔女の森』と言われる場所は存在していた。この国の国境近くにある大きな森。何人たりとも立ち入り禁止となっている、禍々しい雰囲気を持つ場所なのだそうだ。


司祭は少しだけ眉間に皺を寄せた。


「私もそう言い伝えられていた事を聞いた事があるだけです。教会にある資料も、民衆に伝わっている物語とあまり変わりはありません。

真実かどうか……は分かりませんが、教会も王族も魔女の存在を信じています。ただ……もう随分と長い間、魔女は現れていない。

これも魔王の力が封印されているからだと言われているのです」


「そうなの……。ならば魔女も魔物の一種って事かしら?」


「そうですね……ただ、魔女は人の形をしているので……」

そう司祭が言った時、頭上からバサバサという大きな音が聞こえ、私達は一斉に空を見上げた。


そこには昨晩、厩で見かけたものと同じ魔物が私達の頭上に飛んでいた。その魔物は私達の姿を認めると、目掛けて滑空して来る。


咄嗟に弓を構えようとするも、向こうのスピードが速すぎて、狙えない。鋭い爪が私の方へと向いている。思わず私は目を瞑る。やられると思った瞬間、私と魔物の間には聖騎士の姿と、薄っすら白く輝く結界が現れた。


「あ……あなたは……」

私はその細身の聖騎士の背中を見る。

しかし、その結界は意外と脆く、既に魔物の爪に引き裂かれそうになっていた。


私はまた、弓を構える姿勢を取ると、今度は魔物の頭を狙い、白く輝く矢を放った。

矢は魔物の額に命中し、空中でその魔物は黒い霧となって散っていった。


私の前で聖騎士がガクッと片膝を付いて姿勢を崩す。


「大丈夫?!」

私は咄嗟に聖騎士を抱える様に跪いた。

聖騎士はコクコクと頷くが、仮面のない口元の顔色は悪い。


「あなたは……聖なる力を持っているのね」

私は聖騎士が意外と華奢である事に気付いていたが、見て見ぬふりをしていた自分に気付く。


私は近くに立っていた司祭に視線を移す。司祭は微かに頷くと、


「お察しの通り……聖騎士はかつての聖女候補の方です」

と小さく答えた。


先程私を助けてくれた聖騎士を護衛が肩を貸して歩く。……彼……いや彼女は意外と年齢を重ねているのかもしれない。


司祭は歩きながら私の疑問に答える様に語りだした。


「……代替わりが行われない間にも、聖なる力を持った女児は生まれています。元々……貴族に生まれた者は良いのですが、孤児であった者には……厳しい目が向けられる事が多々あった」


「そんな!何の為の保護プログラムなのですか!!」

つい私は目の前の司祭を責める様に語気を強めた。


「ウォルフォード侯爵令嬢様のお怒りはご尤も。陛下ですら、それには苦言を呈していますが……如何せん、聖女になると思って引き取ったのに当てが外れた……そう思う貴族は少なからず居ます。嘆かわしい事です」

司祭は申し訳なさそうに、肩を借りて歩く聖騎士の背中を見つめた。

私の隣にいるもう一人の聖騎士に目をやると、彼女の手は硬く握られていた。その拳は少し震えている様に見える。


私は自らも孤児出身である事で、この二人の聖騎士を他人とは思えぬ気持ちで見つめた。


「……聖女になれなかった者は力を封印されると聞きました」


「ええ、殆どは。聖なる力はわが国の財産です。例外がこの『聖騎士』です。彼……いや彼女らは身分を捨て聖女を守る聖騎士となります。剣術を習い、体を鍛える。身も心も聖女に捧げる聖騎士は、聖女の為に命をも捨てる覚悟です」

司祭の言葉に私は戦慄した。聖女の盾になれ……そう言っているのだと。

彼女達が顔も声も性別も捨てるのは……自分という人間を捨てたからなのかもしれない。


「そんな……彼女達は物ではありません……」

怒りが声に滲む。

知らなかった事とはいえ……私はやるせない気持ちに支配されていた。


そんな中でも、容赦なく魔物が私達一行を襲ってくる。

やはりこの森にある洞窟は彼らの巣なのだろうか?私達を巣を狙う不届き者と認識した魔物達はとても攻撃的であった。


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