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第11話

私達は主任試験官の司祭に厳重注意を受けた。

まぁ夜に出歩くなと言われていたのに、それを守らなかった私達は、素直に謝罪した。


司祭の部屋を出ようとした時、

「クラリス嬢、少し残っていただけますか?」

と私だけ声を掛けられる。

レオナ様が心配そうに私の顔を見る。私は『心配ない』と示す様に頷いた。


「何でしょう」


「あの魔物を倒したのは、貴女ですか?」


「………はい」

司祭の責めるような口調に私の声は小さくなる。


「今まで魔物を倒した経験は?いえ、その前に。実際の魔物を見たことがありますか?」

司祭は机に両手を乗せて指先を組んでいた。

机を挟んで立たされている私は、まるで教師に叱られる生徒の様だ。

……こんな事、孤児院でもあったな……と思い出す。

歳下の子を虐めていたガキ大将を私がボコボコにした時だ。

私も随分とやられたがその倍は殴ってやったと自負していた。

正直、自分は悪くないのに、何故自分が怒られているのか分からなかった私は不貞腐れきっていた事を思い出していた。

……その時もこんな風に机を挟んで叱られたっけ。

『女の子なのに乱暴者だなんて』と。そこに女も男も関係ないと思った私は反論したが、その後一週間も反省部屋と呼ばれる部屋に押し込められたのは苦い思い出だ。


「いえ。初めてです」


「初めて……その割にはよく成し遂げましたね」


「いえ……一匹は逃がしてしまいました」

その言葉に司祭は答える。


「深追いせずに良かったですよ。それにしても無謀だ。護衛の到着を待てなかったのですか?」


「馬が……狙われていましたから」


「だとしても……です。直ぐに逃げれば良かったものを」


「ちょっと待ってください。最終試験は『魔物退治』ですよね?それなのに実際に魔物に遭ったら逃げろ?護衛を待て?そんな事をしていて試験になりますか?そもそも、今までの試験って役に立ってます?」

私は抗議した。


ずっとふわふわとした試験を行っておいて、いざとなって使えぬ力など、なんの意味があるのか。私は頭にきていた。


「試験には護衛が付きます。もちろん今までの試験にも意味はある。聖なる力は魔物を倒す為にあるわけではなく、魔王を封印する為のもの。

クラリス嬢……貴女は確かに大きな力を持っている様だが、使い方はイマイチです。あまり驕らない方が良い」

司祭の物言いに私は余計に頭に血が昇った。


「別に驕っている訳では……!!」


「驕っているから、護衛も待たず、逃げもしなかったのでしょう。あまり自分の力を過信しない方が良いですよ?」


「それはさっきも言った様に……!」


「もう話は終わりです。明日は最終試験ですから、早く休んだほうが良い」

私の反論は聞かず、司祭は話を強制的に終わらせた。


私は自分の怒りを扉にぶつける様に思いっ切り『バタン!!』と閉めた。……だからといってスッキリする訳ではないが。


部屋の前には心配そうにアメリが待っていた。


「お嬢様!!良くご無事で!魔物が出たと聞いて心配で、心配で」


「アメリ、心配かけてごめんなさい。私は大丈夫よ。さぁ、部屋へ戻りましょう」

私はアメリを促して部屋へと戻る。

アメリの顔を見た途端、私の怒りはシュワシュワと音を立てて消えていった。




翌朝。外は晴天。これを試験日和とでも言うのだろうか。

アメリはシンプルなワンピースを用意してくれた。足元は編み上げブーツ。これならば動きやすい。

朝食は軽めに済ませる。体が重くなりすぎては、せっかくのアメリの心遣いを台無しにしてしまいそうだ。

用意を終えた私は席を立つ。


「お嬢様、頑張って下さいね!」


アメリが握り拳を握る。彼女の方が力が入っているようだ。


「ありがとう。頑張るわ!」

私は笑顔で扉を開けた。

アメリはここで私の帰りを待つ。昨晩の事もあり、彼女の不安が少し伝わってきた。


しかしそれを振り切る様に大きな声で


「行ってらっしゃいませ!!」

とアメリは私を見送った。



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