「あなたの夢をひとつだけ
筋骨隆々のたくましい腕を組んだ魔神がぼくの目の前に立った。
「夢を叶えるって、どんな夢でもいいの?」
「もちろんだとも。わたしに不可能はない」
「本当かなあ」
「わたしを疑うのか?」
魔神は鋭い
「だって、おじさん見るからに胡散臭うさんくさそうじゃん」
ぼくは魔神の中近東の衣装のようなものを指さした。
「失礼な。これでも魔界ではけっこう名が知れた存在なのだぞ」
「おじさん。名前はなんていうのさ?」
「ムダーシャ」
「無駄あじゃ?」
「そうではない。ムダーシャだ」
「ふうん。じゃあひと晩考えておくから、あしたの朝7時にまた来てくれるかな?」
「かしこまりました。それでは明朝参上します」
そう魔人が言うと、白い煙が立ち昇った。煙が晴れた時にはもうそこには誰もいなかった。
「これは現実だろうか。ううん、まあいいか。とりあえず何か夢を考えよう」
ぼくは世紀の美女と結婚する。大金持ちになる。F1レーサーになって優勝する。ノーベル文学賞作家になる。ロック・スターになって世界中を演奏して周る・・・・・・などいろいろと夢が膨らんできた。ふだんぼんやりしているぼくは、あまりに頭を使ったものだからその晩はぐっすり眠ってしまった。
ぼくは夢をみた。なぜか身体が宙に浮いて、青空を飛行していた。下界が見える。みんな通勤通学の時間なのだろう。速足で歩いている姿が見える。
すると急にオシッコをしたくなってしまった。そこでズボンを降ろし、空から下界に向かって盛大にオシッコを放出したのだ。
ワオ!そこを歩いているのは憧れの女性ではないか。でもぼくのオシッコの雨は止めどなく降り注いで、彼女の頭上にも時ならぬ土砂降りになって降りかかってしまっているのである。最悪だ~。
ぼくはガバッと布団からはね起きた。やばいこの歳でオネショをしてしまった。
そこへ魔人ムダーシャが煙の中から現れた。
「ではあなたの夢をかなえましょう」
「え?ちょっ、ちょっと待って。どういうこと?」
「ですから、あなたの夢を現実にしてあげるのです」
「ぼくの願いを叶えてくれるんじゃないの?」
「何を言っているのです。願いなんてひとことも言ってないですよ。さきほどあなたが見た夢を現実にしてあげるのです」
・・・・・・頭上でぼくの悲鳴を聞いたひと。すぐに逃げてください!