「やっぱ、夏の定番といえば肝試しでしょう」
そう言い出したのは4人の中でも、リーダー格の
「肝試しって、どこでやるのよ」
「そりゃ、墓地とかトンネルとか廃業した病院なんかじゃね」
友里恵が進藤の腕にしがみつく。「やだ。怖い」
「あそこはどうだろう。街はずれにある洋館」と
「洋館って、もしかしてあのお化け屋敷のこと」と、今度は
「だいじょうぶだよ。2対2で行けば怖くないさ」進藤はもうあの誰も住んでいない洋館に行く気満々だ。「じゃあ、順番を決めようぜ」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「それじゃあいいか。俺と友里恵が先に行って、二階の一番奥の部屋のテーブルに、このロウソクの火を点けて置いてくる。おれたちが帰ってきたらバトンタッチして由良と早弥がロウソクを回収してくるんだ」
進藤がみんなを見回す。
「あたし気が進まないんだよね。突き当りの部屋って開かずの間だって噂だよ」
「まかせとけ。その時にはおれがぶち破ってやるからよ」と進藤がTシャツの袖をめくって力こぶを作る。
「でもさ、あの屋敷、誰もいないはずなのに、夜中に人影を見たって言う人がいるんだって」と早弥が震えた声を出す。
「浮浪者が住み着いてるのかもな」由良が肩をすくめる。
「それならなおのことおれの出番だ。あの家はもともとおれの叔父さんの家だからな」
「なんだよそれ。お前の親戚の屋敷だったのか」由良があきれた顔で言う。
「そう。だから安心しろ。不法侵入にはあたらないから」
「どうして今は空き家なの?」早弥が不安そうに訊ねる。
「昔ちょっと事件があってさ・・・・・・」
「なに?」友里恵が眉をひそめる。
「それを言うとお前らビビるから聞かない方がいい」
「やっぱり出るんだ・・・・・・」友里恵が言う。
「何が」由良が友里恵を見る。
「幽霊」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「おい。いくらなんでもおかしくないか」由良は洋館を見上げてつぶやいた。「もう30分になるのに戻って来ないなんて」
時間は夜中の2時を過ぎている。
「そうよね。でもここ、進藤くんの叔父さんの家だって言ってたわよね。まさか友里恵と一緒にベッドインとかしてたりして」
「気分が盛り上がってか」
「そんな訳ないよね」
「探しに行ってみようか」
「うん」
由良と早弥は手をつなぎ、一本の懐中電灯の光をたよりに洋館の中に入って行った。
荒れ果てた中庭を通り、洋館の玄関をくぐった。
「・・・・・・あたし、ここ無理かも」早弥の手が震え出した。
「どうしたの」
「何かがいる感じがするのよ」
「マジか・・・・・・でも進藤たちの気配かもよ」
「違う・・・・・・なんだろう。もっと悲し気な目でわたし達を見ているような・・・・・・」
「わかった。とにかく進藤と友里恵を見つけたら、すぐここを出よう」
由良と早弥はミシミシと音を立てる階段を登って行った。長い廊下の先に例の部屋が見える。
「進藤!友里恵!どこだ、どこにいる!」
由良の叫び声が、洋館の壁にこだまして
「行ってみましょう」
由良と早弥は突き当りの部屋にたどり着いた。部屋のドアの隙間から、薄っすらと明かりが漏れている。老婆がうめくような音と共にドアが開いた。
突き当たりの壁の床に、ひざまずく二人の人影が見えた。彼らの前で、ロウソクが頼りなげな炎をゆらしている。
「おい。進藤、友里恵。どうしたんだ。しっかりしろ」
由良は彼らの前に回り込み、顔を覗き込んだ。
「!」
進藤と友里恵が白目を剝いていた。
「早弥。大変だ!こいつら息をしていない」
振り返ると、目も鼻も口もない早弥がそこに立っていた。由良は気が遠くなり、その場で息を引き取った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「・・・・・・というわけで、毎年夏になると、この屋敷に亡くなったはずの四人の若者の幽霊が集まって来るんだって」
「まあ、恐ろしい。肝試しには打ってつけのお屋敷じゃない。みんな、今年はここで肝試しやろうか」