『南極を制する者は、難局を制する』とは、今は亡き、皇帝ペンギンの王”ペン左衛門”の言葉である。
「総統、またやられました!」
憲兵のペンタが慌てふためいてペタペタと走ってきた。
「うむ、またしても“大盗賊カモメ軍団”のしわざか。それで、被害はいかほどだ」
「卵5個とヒナが3羽です」
「くそう」総統は地団駄じだんだ踏んで悔しがった。
「こうなったら、早苗おねえさんに相談してみてはいかがでしょうか」
「そうだな・・・“空飛ぶペンギン軍団”を作る方法だ」
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南極越冬隊の藤崎早苗は、千羽を超えるペンギンの群れに囲まれていた。
「空を飛びたいですって?」
千羽を超えるペンギンが、いっせいに稲穂が風になびくかのように首を縦に振る。壮観である。
「そうねえ・・・・・・まずあんたら太り過ぎだよ。もっとスリムになること。それに羽がちっこいから大きくしないとダメだね。あと、推進力をつけるためには尾をまっすぐ長く伸ばすのがいいわね。とにかくあんたら全員でそれを念じなさい」
「早苗おねえさん、ありがとう」
こんなんでよかったのかしらと、心の中で舌を出しながら早苗は観測所に戻った。南極の夏は短い。11月から3月までに作業をすべて完了しなくてはならないのである。
さっそくペンギン達は、“クレイシ”と呼ばれる保育所に、55個の卵を集結し、全員で祈り続けたのであった。
そのかいあってか、約20羽の新種ペンギンが誕生した。彼らは小ぶりながら、身体はスリムで、尖った羽を持ち、真っ直ぐな尾を携たずさえていた。そして皇帝ペンギンのシンボルである黄色い頬に対して、彼らは赤をシンボルとしていた。
結果は上々。
大盗賊カモメ軍団は、新ペンギン迎撃隊の俊敏な飛行攻撃に、完膚なきまでにたたきのめされてしまったのである。
しかし、問題がないわけではなかった。
彼らのスリムな身体では、マイナス89度にも達する南極の冬を越すことは死を意味していた。新ペンギン迎撃隊は早苗のいる日本を目指すことにした。
そして、今でも彼らは早苗を捜している。なるべく女性のいる人家を選び、軒先に巣を作るのであった。
彼らはその後“若いツバメ”と呼ばれるようになったという。