今年も
「Trick or Treat!(お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!)」
道の向こうで魔女やお化けに扮した子供達が、裕福そうな家を巡っているのが見える。亜梨寿はふっと微笑んでその姿を見送った。
ハロウィンはもともと、アイルランドの収穫祭が始まりなのだそうだ。
10月31日の夜は、1年における光りと暗闇の境界線とされていて、死霊がこの世界に迷い込むと信じられていたのだ。そして、日本のお盆と同じように、親戚や親友などの霊もこの日に家に帰るとされ、火を燃やしたり、ご馳走を楽しむというのが習わしだった。
また、悪魔やお化けなどの怖い仮装をすることで、悪い死霊から身を隠すとされていた。
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姉の家に到着すると、家の玄関の登り口にカボチャをくり抜いて作った『ジャック・オー・ランタン』が飾り付けてあった。
チャイムを鳴らす。ドアが開いて吸血鬼ドラキュラの格好をした、義兄の
「やあ、久しぶり。ちょうどこれから出かけるところなんだ」
瑛斗はちょっと複雑な顔をして笑った。「まあ、ゆっくりしていってくれ」
「亜梨寿。今年も来てくれたのね」
瑛斗の後ろに姉の
「それじゃあ、またあとで」
黒マントをひるがえして瑛斗が街に消えていく。
「お義兄にいさんはどちらへ?」
亜梨寿が姉に訊く。
「いつものお仲間とポーカーだって」と、玲奈が口を歪めて肩をすくめる。
「Trick or Treat!」
いつの間にか、さきほどの子供達が玄関の前に集まってきていた。小さな魔女とお化けたちが可愛い声で口々に叫ぶ。
「Trick or Treat!」
「はいお菓子」と玲奈はバスケットに用意しておいたお菓子の包みをひとりずつ配りはじめる。
「Trick or Treat・・・・・・」
最後列の一番小さなゴーストにお菓子をあげると、玲奈はゴーストを愛おしそうにぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう」
お化けのリーダーがそう言うと、お化けの集団は次の家に移動して行った。一番ちいさなゴーストは列の最後尾にフワフワと頼りな気について行くのが見える。
「だめねえ」
玲奈がその姿を見てため息をついた。
「どうしたの」
亜梨寿は玲奈の肩越しにゴーストの隊列を眺める。
「あれじゃあ、本物の幽霊だってバレバレじゃない」
たしかに一番後ろの小さなゴーストは、ふわふわ宙に浮いているようだった。
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「いいのか。こんなところに居て」
フランケンシュタインに扮した友達がドラキュラ姿の瑛斗に言った。
「なに。家にいたって気が滅入るだけさ」
瑛斗はカードを交換する。
「それにしたって、今日は命日なんだろう」
ミイラ男の扮装の男がカードを切る。
「義理の妹が線香をあげに来てくれている」
瑛斗はたばこに火を点けてウイスキーを一気に煽った。
「気の毒にな・・・・・・」
ゾンビのメイクを施した友人がカードを切る。
瑛斗は言った。
「事故で妻子をなくした男なんてみじめなもんさ・・・・・・」
瑛斗は義妹のそばに居たくなかった。
双子の妹を見ていると、どうしても亡き妻を思い出さずにはいられなかったから・・・・・・。