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第14話 新しい身体と狙撃銃

 第3回VRMMORPG『BulletS RECOIL総合3位入賞チームとして、チームS・S(シューメイ・シノブ)の名が刻まれた。

 メニューで賞金が入ったのを確認したオレは、念願のTHX-1489と、それに見合う狙撃銃を買うために初期から通っている馴染みの老舗ガンショップへ、シューメイと一緒に足を運んだ。


 ガンショップに入ると、オヤジさんが「よ〜! シューメイ隊長、シノブちゃん! 惜しかったな〜、でも3位入賞おめでとう!』と声をかけてきた。この人はNCPマークがないから一般プレイヤーか、もしくはゲーム会社の社員なんだろう。ま、どっちにしてもゲーム内じゃ関係ないことだから、深くは聞いたことがないけど。

 店にいた客たちも拍手をしてくれて、ちょっと小っ恥ずかしい。

 VRMMORPG BulletS RECOILは、今やメインイベントになっていてその実況はこの店内でも流れているし、ゲーム内のあらゆる場所で映し出されている。しかも、ピックアップされたプレイヤーの視点、つまりアバターの目を通した映像がシステム経由で共有されるから、臨場感が半端ないんだ。

「おう」とそっけなく返す秀明。

 最近のVRMMORPG BulletS内では、いつもこんな調子だ。


「ありがと〜 10分前には見当たらなかった敵にやられちゃったよ……そのチームが優勝したんでしょ?」

 相変わらずオレは、VRMMORPG BulletS内でもできるだけ女の子っぽく振る舞うようにしている。

「そうなんだよ。あいつらの遠距離射撃は凄かったぞ〜」と、ショップのオヤジさんが言う。

「そうなの〜? あ、そうだ。わたし、賞金でアバターをこのTHX-1489に変えたいんだ〜 これって在庫ある?」と言いながら、メニューからカタログのホログラム映像をオヤジさんに見せる。

「ああ、1体ならあるぜ」

「良かったぁ〜! ねぇ、THX-1489って、『天の秤目』搭載してるんでしょ?」

「お〜、シノブちゃんよく知ってるね〜」

「だって、一番最初に目をつけたアバターだしね〜スナイパーやりたかったからさ。『天の秤目』はほしいスキルだよね〜」

「だろうな! でもな、なぜか1体しか制作されてないし、金髪で目立つから不人気で売れ残ってんだよ。だから安くしとくぜ」

「え〜、金髪赤眼で、かわいいじゃん!」

「まぁ、それは好みだな……赤眼なのは視覚情報処理系強化スキルが搭載されてれば共通だ。それ以外にもスキルがあるらしいんだ」

「え? それ、なに?」

「カタログには『天の秤目』しか公表されてないけど、使ったヤツがまだ誰もいないから、これはあくまで噂だな……」

「え〜、教えて〜!」


「通常、型番末尾は偶数だろ? THX-1489は……」

「そう言われてみれば、奇数ね……。今のわたしはT-0814で、シューメイもT-9000で偶数だし……。何かあんの? 焦らさないで教えてよ〜」

「まあまあ。末尾が奇数番号ってことは、ノーマル版をカスタマイズしてるってことだ。しかも、9なんて最終バージョンじゃないかと思う。そして、通常の型番はTから始まるのに、THXで始まってる。Tハイパーなんちゃらって、完全オリジナルプログラムじゃないか? ってな」

「なんか都市伝説っぽいけど……それで、『天の秤目』以外にもスキルがあるって?」

「そう。噂じゃ、『鷹の目』なんじゃないかって……」

「『鷹の目』ぇ〜? それ、なに?」

「簡単に言うと、常に空から地上を見下ろすように状況を把握する、異常空間把握のスキルらしい」

 10分前には見当たらなかった敵……。もしかして、ヤツらの中にそのスキルを持ってるヤツがいたのか?

 そのことは黙っておいて、「そ、それって、スキャンのマップいらないじゃん! え〜絶対ほしい! 賞金と、このT-0814下取りで買える?」

「ああ、ちょっときついけど……安くすると言った手前、少しはお釣りも出せるぜ? 他にほしいものはあるか?」と、早速商売っ気を出してくる。


「うん、少し重くてもいいから、射程1,500メートルくらいの狙撃銃がほしいかな〜って」

「狙撃銃か……ウィンチェスタ-M70とかレミントンM700、バレットM98Bとかあるが、1,500かぁ……俺の好みだけどAWSMあたりかな。.338ラプア・マグナム弾と合わせりゃベストだな。それにTHX-1489の『天の秤目』があればもう完璧ってなもんよ! だがそれはお釣りだけじゃ買えねぇなぁ……」

「じゃ、貯めたゴールドを追加して……これでなんとかして!」と、ゴールドの残高をオヤジさんに見せる。

「しょーがねぇな。ま、3位入賞祝いってことでそれで手を打つか〜 それにお得意さんのシノブちゃんの頼みじゃしかたねぇしな〜」


 速攻で購入しAWSMを実体化させ手に持つ……。

「うっわ、重っ! M16A3の倍はあるね〜 これ持って歩けるかな〜 狙撃位置で実体化させればいいけど、PvPで移動するにはキツいよ……」

「シノブがキツけりゃ、移動時は俺が担いでやるからなんとかなる」

 今まで黙っていたシューメイが口を開く。

「ひぃ〜 お姫様だっこだけはやめて〜」

「担ぐと言ったから、そんなことはしない。肩車してやる。そうすりゃ索敵もできるだろ?」

「あ〜それ名案だわ〜 あ、でもTHX-1489って重さ43.5キロもあるよ?」

「そんなのは、銃、弾丸と装備合計の、ほんの数倍だ」

「あ、あははは~ そ、そうだね〜」


「シューメイ隊長は何かほしいもんあるか?」と、オヤジさんまたまた商売っけ出しまくりだ。

「俺は……そうだな、対戦車ライフルか対戦車弾あたり……」

「おいおい、戦争でもおっ始める気か?」

「そ、そうだよ。なにもそんなもの……」

「いや、3位とはいえ入賞したからには、次回以降は必ずマークされる。それに車両で移動してくる相手には重火器が必要になる」

「最もだ……AT4だと使い捨てだし、PSRL-1あたりはどうかな……800メートルで90パーセントの命中率あるし、重量は6.35キロで、弾頭はSR-H1は3.82キロだけど、あんたなら軽々じゃないかな? こいつなら有効射程は500メートル、最大射程は800メートルだ」

「じゃ、それもらおうか。弾頭はとりあえず10発、それとシノブ用の弾、100発俺が買っとく。これで足りるか?」とゴールド残高を見せる。

「え、いいの〜? ありがとう〜」

 あっさりと決めるなぁ。

「おう、それこそ十分買えるぜ。他には……」とオヤジさん。

「今日は、これでいい」

「そ、そうかい……じゃ、シノブちゃんコンバートしようか?」

「は〜い。じゃ、シューメイ、ちょ〜っと待っててね〜」


「アバターのコンバートする人って多いの?」とコンバートブースに入りながらオヤジさんに聞いてみる。

「最近はアップデートで初心者向けのアバターも高性能化してるから、シノブちゃんみたいに初回版のプレイヤーがアップグレードするくらいかな〜」

「そうなんだ〜 わたしこのTHX-1489って、一番最初に見たときから欲しかったんだよね〜 今まで売れ残ってくれて運命感じるわ〜」

「そりゃ良かった。じゃ、コンバートするよ」


 コンバートが終わり、ブースから出る……お〜っと、素っ裸だ。

 ゴールドも少しは残してたので急いでXSサイズのパンツとスポブラをメニューから購入して履く。

「え〜っと、この身長に合った服ってあるかな〜?」急に眼の高さが低くなりオヤジさんを見上げて訴える。

「わるい、忘れてた。US陸軍の迷彩服ならそのサイズがたしか……あ、あった。これはおまけだ。こんなちっさい服、それこそ誰も買ってくれないしな」

「ありがとう〜」


 こうしてオレは、THX-1489とAWSMを。

 シューメイはえ〜っとなんだったっけか……ロケットランチャーPSRL-1と、対戦車弾SR-H1を手に入れた。


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