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第4話 スキル

「な、忍。試してみたいんだけど、ゲーム内にいるときみたいにメニューって出せるか?」

 突然秀明が言い出す。

「え? この現実世界で? 出るわけないじゃん!」

「まぁいいからやってみ」

 半信半疑で、ゲーム内と同じように右手人差し指を上から下へ、何もない空間をスワイプする。

「出ないみたい」

「ん〜そっか……じゃ今度はレアスキル……えーっとなんだっけ?」

「あ~『天の秤目』?」

「そう、それ。それ使えるか?」

「えーっと、じゃぁ……」自宅は高台のマンション6階だから、遠くが見通せる。

 西の方角に富士山があるので、ベランダに出てちょっと曇天だけどシルエットはわかるので試してみる。

 今度も半信半疑でゲーム内にいるときと同じに、標的を狙うように目を凝らしてみる。

 ――右の利き目の視野内に、見慣れたレティクルがあらわれ、そこに捉えた富士山をズームアップ。距離が表示される。

「え? あっちとおんなじにズームと測距ができるんだけど……」

「ん〜」秀明は唸り続ける……。

「あくまでも仮定なんだが、アバター内に忍の精神が入り込んだままなのか、アバターと生身の忍が一体化してしまったのか……少なくともアバター固有の能力は引き継いでるみたいだな」

「こ、これって……なんであっちでの能力まで……この身体どう見ても生身だし脈もあるし呼吸もしてるし、だいいちおしっこだってできたし、ビールだって飲めるし、それにお……」と言ったところで梓ちゃんに睨まれる。

「……そうですねぇ……忍さん、身体はどう見ても生身ですよね。さっき着替えたときに身体を触らせてもらったんですけど……体温だって普通だし、金髪赤眼、色白でちょっと変わってますけど生身でした~」と梓ちゃん。

「じゃ、オレみたいな状態のヤツが1,000人単位で……」

「いや、そうとも限らないかもな。さっきの書込みをよく見てみると、ただログオンできないってのが大多数で、忍みたいなアバターのまんまって数件だし、レアなケースなんじゃないか?」

「そ、そんなぁ〜」思わず床にへたり込む。

 さっきまで、あぐらかいてビール飲んでたのに、いつの間にかぺたんこ座りになっていた。そんなことを気にしてる場合じゃないんだけど、なんかこっちのほうが座りやすい……骨格の違いか?

 それからしばらく運営サイトを見ていた秀明が、

「お! タイミングよく運営サイトに、今回の緊急メンテナンスについてのお知らせってのがアップされたぞ」


 3人でPCの画面を食い入るように見ると、そこには――


『Title:いつも本VRMMORPG BulletSをお楽しみいただきありがとうございます。


緊急メンテナンスついてお知らせいたします。


XX月XX日23時00分より翌05時00分まで、緊急メンテナンスを行いました。

開始前、60秒以内にログオフをしていただく旨システムアナウンスを行いましたが約4,000名のプレイヤー様について強制ログアウトを行い、現在正常にログオフが完了したことを確認しております。

しかしながら、該当プレイヤー様のうち、若干名において、「2重ログオンできません」のメッセージが表示され、再ログオンできない状態となっており、本事象につきまして現在原因究明と修正対応を行なっております。

プレイヤーの皆様にご迷惑をおかけいたしましたことをお詫び申し上げますと同時に、早急に正常運用の再開に取り組んでまいります。

本件につきまして、進展あり次第お知らせさせていただきます。


この度はプレイヤー様にご迷惑をおかけし大変申し訳ございません。

今後とも、本VRMMORPG BulletSをよろしくお願いいたします。』


「だってさ。通り一辺倒で、内容ぼかした発表だな」と秀明。

「オレみたいにアバターの姿のままって把握されていないのかな?」

「いや、把握はしていてもアバターの姿のままってのを、運営が公式発表したら大問題だし、もしかしたら忍と同じ状態ってほんの数人だけなのか……若干名がそれなのか……?」

 またなにやら考え始める秀明。


 他にやることもなく、オレは朝から何も摂らずに空っ腹にビールを飲んだんで眠くなり、しばらくテーブルに突っ伏して寝てしまったようだ――


「……ん~」

「あ、忍。起きたか?」と秀明。

 目が覚めても元の姿には戻っておらず、相変わらずアバターの姿のままだ。髪が顔に絡みつく。

「まだ眠いか? 寝てる間にコンビニだけどサンドウィッチと飲み物買ってきたから、これ食え。俺たちはもう食べた」

「あ、ありがとう」

 野菜ジュースでミックスサンドをもそもそ食べる。

「あと、梓にはジーンズ以外に当座の服を買いにいってもらってる」

「ええええ、いらないよそんなの」

「でもなんか長引きそうだし、だいいち会社どうすんだよ」

「そ、そうだね……会社に、女性アバターの姿のままになっちゃいました〜なんてこの格好で行っても、いきなりは信じてもらえないだろうし……」

「その辺は、しばらくは体調不良とか俺から伝えてなんとか凌いで、在宅勤務してもらうけど、食料買いに行くにも着替えないと困るだろう?」

「ううう~なんか、秀明優しくね?」

「そ、そんなことない……と思うぞ。中身は忍ってのはわかってるけど、外見が女子だからやっぱり女子に対する態度をとっちまうんだろうな」

 秀明のこういったところ、性格が良くモテる部分なのかな……とふと思う。

「あ、そうだ。俺、さっき忍のギア借りてダイブしたんだけど、」

「うん」

「俺が登録してるシノブのフレンドステータス、メニュー上ではログオフになってた……」

「え? じゃ運営が発表しているのは一応本当だったんだ」

「運営の対応で復旧して、忍がアバターの状態から戻れる可能性出てきたな。けど、ちょっと考えたんだよ」

「?」

「今は面倒だからログオンシークエンス、アナウンスをスキップしてすぐダイブしてるけど、初めてダイブしたときのこと覚えてるか?」

「ん〜最初は、視覚が制御下に入って――『次に身体感覚がアバターと同期します』とかなんとか……」

「そう、それ。中枢神経に、システムが接続してきてるだろ? ログオフ時はその逆。 強制ログアウトが原因で、忍はアバターと同期が切断されずに現実世界に戻ってきた。それが頭の中で閃光が走ったような感覚、ってんじゃないか? あと、激しい頭痛と全身に激痛ってのは、身体が女子化したときの痛みだと思う」

「ってことは……アバターとオレが一体化した説か。こりゃやっぱり解決まで長引きそうだ……」


 話し込んでいるところに、梓ちゃんが戻ってきた。

「ただいま〜 お嫌でしょうけど普段用のスカート買ってきましたよ〜 あと会社用のブレザー、ブラウスとスカート。それから替えの下着。23センチのスニーカーとローファー。それと生足じゃ嫌でしょうから、ニーソックスも買ってきましたよ〜」

「なななんでニーソ、それってJK……」

「え、だって秀明くんが忍さん、JK好きだからって……」

「いやいやいや、す、好きだけど、それ自分がなるんじゃなくて、見て愛でるものであって……」

「いちいちうるさい童貞だな。好意には感謝しろって」

「あうぅぅ~ 好きで童貞やってるんじゃないんだってば〜」


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