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第3話 2重ログオンできません

 トイレを済ませ落ち着いたので、やっとなんか頭がまわり出した。

「で、オレ女の子になっちゃった……というか、生身がアバターとおんなじって、これどうすりゃいいんだ?」

「……原因はやっぱり昨日の緊急メンテナンス時の強制ログアウトか?」

「やっぱりそれしか考えられないか〜 でもオレ以外にも強制ログアウトされた秀明が、元のままなのはなぜなんだ? なんでオレだけなのか、わけわからん……」

「俺はシノブがトリガー引く前にログオフしたぞ?」

「うわ、裏切り者め!」

「え? 強制ログアウトされたらヤバいって感じだったし、俺は時間あった。だいいちおまえが欲かいて、最後まで粘ってるからだろ!」

「なに〜!」

「2人とも少し落ち着いてくださいよ〜」とそれまで話を聞いていた梓ちゃん。

「あ、ごめん」

「すまん、梓。忍、少し落ち着いて考えてみようぜ」

「ああ……」とちょっと仏頂面で答える。

 秀明が持ってきてくれたビールを飲みながら、話し込むことになった。

「つまみは……あ、柿ピーしかないけど、いい?」

「十分!」

「は〜い」


「時系列で起きたこと書き出していくか」と秀明。

「うん」

 オレは寝室に行き、プリンターから用紙を数枚ぬき取り、ボールペンと一緒に秀明に渡す。

 仕事でも、ミーティングの中心になるのはグループリーダーの秀明だ。

 オレと梓ちゃんはそれに対し、別視点からの考えでディスカッションしていくってやり方。

「え〜っと……」秀明がオレが話したことを箇条書きしていく。

 1.金曜22時にログオン。ダイブしてプレイ開始。

 2.約1時間後、緊急メンテナンスのアナウンスあり。

 3.内容は60秒以内にログオフしないと強制ログアウトする。プレイヤーデータの保証はできない。

 4.メンテ開始前にシューメイはログオフした。

「う〜!」

「おまえが欲をかくからだろ〜」

「はいはい、いい加減にしてください」

「はい、続けるぞ」

 5.緊急メンテナンスが開始される。

 6.ログオフしていないシノブは強制ログアウトされた。

 7.戻ったらアバターの姿だった。


「ん〜、6と7の間に頭の中で閃光が走ったような感覚と、めちゃくちゃ頭痛がして、全身に激痛が走ったんだよな〜 それからアバターの姿に気づいたのは朝起きてからで、戻ったときは猛烈な睡魔に襲われて寝落ちしたんだ」

「そっか。じゃ、」と秀明が書き直す。

 6.ログオフしていないシノブは強制ログアウトされた。

 7.頭の中で閃光が走ったような感覚、激しい頭痛と全身に激痛が走った。

 8.戻ったら猛烈な睡魔に襲われ寝落ちする。

 9.朝起きたら忍破アバターの姿だった。


「こうか?」と秀明。

「そうだね……うん、こんな感じかな。7と8って、普通にログオフした秀明はなかったんでしょ?」

「ああ、なかった。1から4は、システムログにもおんなじ様なことしか記録されてないだろうな」

「前にシステムログ見たときは、ログオン時間、HPとMPの推移。使用した銃器、弾数、ヒット率、被弾率、発動スキルとその効果。倒した破壊可能NCPやモンスターとプレイヤー数。それと、獲得したゴールドとアイテムが時系列に記録されてるだけで、最後ログオフ時間くらいしかなかったと思う」

「あ、そうか。レアスキル持ちだからMPもあるんだな。とりあえずシステムログ見てみ?」

「うん」


 昨晩から起動しっぱなしのノートPCをリビングに持ってきて、運営のユーザーページにログオン――できないぞ!

「え? ログオンできない! 『2重ログオンできません』だって! オレ、まだあっちにいるのか? 秀明、ログオンしてみて」

 秀明にPCを渡し、ログオンを試してもらう。

 自分のIDとパスワードを入力した秀明の答えは――「うん、普通に入れる……なんでだ?」

「んんん〜? なんで?」

「普通、ログオンできない人がいたら運営が報告とか上げるんじゃないですか~?」と梓ちゃん。

「そうだな〜 通常メンテナンスの時間とか結果報告は、通常なら運営のサイトに上がってるから――」と秀明が、あちこち運営のサイト内を見ても、特にそれらしい発表はない。

「あら~? 障害が発生したら障害報告、メンテナンスがあれば事前に緊急メンテナンスとか上がってるはずですよね〜?」と梓ちゃん。

「普通ならね……」と秀明。


「え?」

「え~?」オレと梓ちゃんが聞き返す。

「これ、どう見ても普通じゃないし、もし運営が掴んでたとしても公式には上げないんじゃないかな?」

「これって、オレのこの状態のこと? うぅ〜たしかに上げにくい事象だよな」

「ね、秀明くん」

「ん?」

「このゲームって、同時ログオンしてる人って何人いるの?」

「アクティブプレイヤーは30,000人くらい……金曜の夜だったから、そんなもんじゃないか」

「じゃ、忍さんみたいな人もいるはずですよね……でも公式に運営に上がってない……あ、SNSならなんか書き込みがあるんじゃ~?」

「SNSか! さっすが梓ちゃん。じゃあ『フルダイブ』、『VRMMORPG BulletS』、『強制ログアウト』、『アバター』あたりのワードで……」と自分でもスマホで検索してみると……。

「うん、ある。『戻れない』とか『アバターのまんま』とかの結果もある! 件数は648件――」

「じゃ、きっとこれって、」

「うん。間違いなくオレと同じ、緊急メンテナンスの強制ログアウト被害者だね」

「書き込んでない人もいるし、もしかすれば1,000人以上――もっといる可能性もあるってことですね~」

「だろうな。『2重ログオンできません』か……」


 何か考えている様子の秀明。


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