『秀明、やばい。今からオレんちに来てくれ!』
メッセージアプリで、助けを求める。秀明の自宅は、徒歩10分くらいの距離にあるから来てくれるだろう。
『なんかあったか?』
『女の子になった』
『はぁ?』
『だ〜か〜ら〜女の子になった。ってか、ゲーム内のアバターの姿になってる』
『朝からなに寝ぼけてるんだよ? じゃ、写真送れよ』
自撮り写真を送る――
『マジか! おまえ、アバターと同じに美少女だな!』
今度はビデオモードで電話がかかってくる。
「そっちか〜い! 他に言うことないのかよ! まあ、美少女なのは確かだけど……」と答えると、
『お! 声もゲーム内のまんま、ツンデレ声だな!』
「んなこと言ってないで、助けてくれ!」
『と言われてもな……』
「とりあえず、女性ものの服とか持って来てくれないか?」
『そんなの持ってな……あ、梓連れてくから待ってろ!』
さては秀明、昨夜は……ま、いっか。
「助かる! 早くしてくれ!」
なにを急いでるんだか、自分でもなにを言っなにてるのかわからない。ちょっとパニック状態だ。
とりあえず救援が来るまで、朝おん定番の『ある!ない?』をし、気を紛らわせる……。
いくらゲーム内で女性アバターを使っているとはいえ、なんたって魔法使いになろうって男だから、女の子の生身なんて……おおおぉっ――!
――などと時間を忘れてそんなことをシテいると、ドアチャイムが鳴る。
「はぁはぁ……は〜い! ちょっと待って~」
ウエットティッシュで手を拭いてニオイしないかを確認し、パタパタと小走りに玄関へ。
ドアフォンのモニターで、秀明とその恋人の秋山梓(あきやま あずさ・女)も一緒なのを確認し、ドアチェーンを外す。
「ど、どうぞ〜」と平静を装い、リビングに上がってもらう。
「おおっ、本当に女子になっちまったな〜、忍!」
「おじゃましま〜す……あ〜女の子ですね〜」と梓ちゃん。
「2人とも、なんでそんなに冷静なのよ? オレなんてもうパニック状態で、さっきやっと落ち着いたのに!」
「ん〜、忍の女子姿、ゲーム内で見慣れてるから違和感がないっていうか……?」
「なんだよ、それ〜!」
「忍さん、金髪に赤い目で可愛くなっちゃって〜 秀明くんが言ってた通りですね〜 なんか妹みたいです〜」
う〜ん、なんなんだ、この2人の落ち着きっぷりは。ま、逆にその方がありがたいけど……。
秀明と梓ちゃんは会社の同僚。同じグループで、遊び、飲み仲間でもある。
梓ちゃんは5期下で、ゲームはしない。
「今は着るものなくて自分のシャツ着てるだけだから、スースーして……」
「忍さん、ちょっとストップです~ とりあえず、秀明くんから聞いてるアバターのサイズに合いそうな下着と、当座の服をドソ・キで買ってきました〜」
「恩に着るよ〜 レシートちょうだい、あとで払うから」
「いつでもいいですよ〜」
下着は女性ものにしたけど、スカートは嫌だろうということで、スウェットとジーンズを買ってきてくれた。
「じゃ、さっそく……」
着替えようとすると――
「あ、ここじゃちょっと。寝室いいですか~? 私が着替え手伝いますね~ 秀明くんはここで待ってて」
「え?」と秀明。
「レディの着替えだから~」と梓ちゃん。
「レディねぇ……」と秀明。
「身体のサイズ、秀明から聞いたの?」
「はい~ 身長148センチ、足の大きさは22。体重45キロ、バストサイズはA70。ウエスト60、ヒップ75……見た目は15、6歳くらいで〜」
「ちょいちょいちょい〜! 細かすぎっ! 秀明め〜」
「でも、アバターのカタログ値だって言ってたんですけど~?」
「カタログにスリーサイズなんて載ってなかったぞ?」
「そうなんですか〜? 秀明くんったらいやらし〜」
とりあえずパンツを履こうと手に取る。
「うわ、パンツめっちゃ小っさ! こんなの履けるの?」
「大丈夫ですよ〜」
履こうとしてシャツをまくり上げる……と、
「あ、忍さん……つるぺた……」
「へ? あ、そうか……アバターだから余計なものがないんじゃないかな……」
「でも忍さんっていうか、そのアバター、肌白くて綺麗! 金髪赤眼に合ってます〜 これ生身で……アバターのまんまなんですよね、一部除いては……」
「うん、アバターにはなかったけど、あった……」
「……み、見たんですか?」
「う、うん。じ、自分の身体だし……」当然、『ある!ない?」をしたことは黙っていた。
「そ、それはそうですけど……」赤面する梓ちゃん。
パンツを履いたら次はブラだ。
「ブラは最初慣れないと思ったんで、フロントホックにしましたけど……やっぱりつつましいですね~」
しかも身体に脂肪が無いので、胸はあんまり盛れないみたいだ。
「う、うん。そうなんだよね……」
なんかアバターだとはいえ、今は自分の身体だからちょっとハズい。
「こ、このアバター高かったんだよ〜 日本円に換算すると、装備含めておよそ2千万円はする」
「そ! そうなんですか?」
「うん、独身だからできる特権かもね。スナイパー特有のレアスキル目的で選んだんだけど、金髪赤眼なんて現実世界じゃ目立つよねぇ」
「そ、そうですね〜」
着替えが終わりリ2人でビングに戻ると、「サイズ、ピッタリでした〜 秀明くんって、忍さんのアバターをジロジロ見てたのバレバレだね!」と梓ちゃんがニヤニヤしながら秀明を茶化す。
「な、なにを言ってるんだ! 忍のアバターTHX-1489のサイズを伝えただけだぞ!」
「う〜、カタログ値以外のスリーサイズもあってなんかいろいろ細かかったぞ! 釈然としないけど、ありがとな! あ、あとさ、梓ちゃんもうひとついい?」
「なんですか〜?」
「あのさ、トイレなんだけど……」
「あ〜そうですね〜 じゃ、ついてきますね〜」
急いでトイレに入ってジーンズとパンツを下ろして座ると、我慢していたせいか一気に――な、長い。しかも音が!
「あ、梓ちゃん。なんか音が……」ドアの外の梓ちゃんに声をかける。音、聞かれちゃってるけど〜
「あはは、まぁ身体的構造が違いますからねぇ〜 あ、あと紙を適当に切って重ねてから、当ててじっとして拭いてくださいね〜 絶対にこすっちゃだめですよ? そうすると小さなくずが、大事なところにくっついちゃってあとが大変ですし、膀胱炎とか他の病気の原因になりますから〜」
「ありがと〜 梓ちゃん来てくれて良かったぁ〜」
「ふふふっ」