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フルダイブゲームシステム金髪赤眼のスナイパー、強制ログアウトで女子化しました。
中島しのぶ
SF空想科学
2024年12月05日
公開日
165,147文字
連載中
【登場人物】
高岡 忍:主人公、男性。プログラマ兼SE。プレイヤー名シノブ。
勝野秀明:忍の友人、男性。同僚でグループリーダー。プレイヤー名シューメイ。
秋山 梓:勝野秀明の恋人、女性。5期後輩の同僚。

【あらすじ】
舞台は主人公の忍と秀明が3年ほど前から続けているフルダイブシステムのオンライン・シューティング・ゲーム『VRMMORPG BulletS』内と現実世界。

ある金曜の晩ハンティングをしているとき、緊急メンテナンスでシノブだけが強制ログアウトされるところからはじまる。
翌朝、目覚めると忍はゲーム内のシノブ(女性型アバターTHX-1489)の姿になっていた。
シノブはシューメイとチームを組んだPlayer versus Player(PvP)大会で2連続優勝する実力とその風貌から『金髪赤眼のスナイパー』の二つ名で恐れられていた。
女子化してしまい困惑する忍を、秀明と梓は『俺たちチームだろ』と手助けをする。

ゲーム運営会社から接触があり強制ログアウトが原因により同期接続が切断できず、忍は生身とアバターが一体化した状態で元の姿には戻れないことを知らされる。
梓に妹扱いされつつも女子として生きることを決めた忍は、運営会社との示談交渉と合意により3人での同居生活を始める。

見知ったプレイヤーに忍とゲーム内のシノブが同じことが気づかれ、一時は恐れと不安に陥るも再び2人の助けで乗り切る。
その後、秀明のちょっとした誤解や、ライバルからの誘いがあったが、チームは強い結束力で再始動。

3人編成で次のPvP大会に備え、戦略と戦術を模索。
シノブはライバルに勝つため、スキルを使わずに狙撃命中率を上げる訓練を続ける。
PvP大会では運営側の方針により、シノブのスキルが使用できず敗退。

大会後、メンバー増強を決断したが、運営から1週間にわたる大規模メンテナンスと、サーバー移転の通知。
メンテナンス終了後に予想外の事態が起きた――

第1話 強制ログアウト

 オレの名前は高岡忍(たかおか しのぶ)。33歳、独身。身長165センチ、体重50キロの細身で、眼鏡歴は小学4年から。見た目は……まあ、普通。どこにでもいるモブ男ってやつだ。

 ――ただし、彼女いない歴イコール年齢。つまり、魔法使いデビューするには十分すぎる年齢ってわけだ。


 仕事はプログラマ兼SE。といってもオンライン系ではなくメインフレーム、つまり汎用コンピュータのお守り。いにしえのプログラミング言語――COBOL――で書かれた、システムのメンテナンスが中心だ。

 なんてったってCOBOL技術者は減少傾向にあるから希少価値があるし、まだ当分仕事はなくならないと考え、入社時からもう10年近くCOBOL屋をやっている。

 しっかし、昔の人は仕様書だの設計書をすべて手書きで作成しているもんだから、仕様変更があっても書き換えられてないときてるんで、それの文書データ化と、ソースコードから仕様変更を読み取って、設計書のアップデートまでやってるから仕事は多い。


 唯一といっていい趣味は、3年ほど前のリリース時から始めたフルダイブシステムのオンライン・シューティング・ゲームだ。

 スナイパーを担当していて、プレイヤー名はシノブ。

 アバターは女性タイプを選んだ。自分と異なる性別のアバター使うなんてザラだろ? オンラインゲームで女性アバターは、まぁ99パーセント男だろう。


 最初は好みの長身、黒目、黒髪ロングタイプにしていたけど、Player versus Player(PvP)大会の賞金と、貯めたゴールドでレアスキルを持つ金髪ロングヘア、赤眼のアバターTHX-1489を手に入れ、今ではそれを使っている。

 敵味方の距離をセンチ単位で正確に把握できるレアスキル『天の秤目』――最大倍率100倍のスコープに相当し、1,000メートル離れた相手でも1センチ単位で捉えられる――を搭載している。スナイパーには欠かせない能力だ。

 ただし、視覚情報処理系強化スキル持ちに共通する特徴として、虹彩が赤色になるため、少し眩しいのが欠点だ。

 もうひとつの能力もあるが、これはシステム依存なので、果たしてスキルと呼べるのかどうか……。


 大人数のチームには属せず、同じ会社の同期で同僚の勝野秀明(かつの ひであき・男)、プレイヤー名シューメイとペアを組んでいる。リアルでもお互いを秀明、忍と呼び合う、なにかと気の合う仲だ。

 身長180センチ、体重80キロオーバーの体育会系のガチムチ男で、アバターも本人に近い格闘家っぽいT-9000を選んでいる。近距離で銃とナイフを使った格闘戦を担当している。

 3度の飯よりゲーム好きで、このゲームに引っ張り込んだのも秀明だったが、彼女ができてからはそうでもなくなり、平日夜と日曜はきっちり彼女との時間を優先しているらしい。


 平日は主に1人でPvPやモンスター狩りをしてゴールドやアイテムを集め、金曜と土曜はシューメイとその場にいた少人数のチームに参加し、レイドに出ることが多い。あとは半年ごとに開催されるPvP大会に参加したりといったところだ。

 スナイパーをやっているプレイヤーは数が少なく、その分重宝されるし、シューメイのようなガタイのいい用心棒タイプとペアを組んでいるおかげで、女性タイプのアバターでもちょっかいを出されることはほとんどない。

 まあ、中身が男でも、野郎ばかりのチームよりは、見た目だけでも女性がいたほうが臨時チームでも楽しくレイドできるってものだろ?


 ◇


 今日は金曜なので、22時に秀明と待ち合わせしてゲームにダイブ。周囲を見回しても臨時メンバーを探しているチームがいなかったので、2人でモンスター狩りをすることにした。

 その最中、突然システムアラートが鳴り響き全世界――ってもゲーム内だけど、景色が赤く染まる。

『緊急メンテナンスを行いますのでプレイヤーは60秒以内にログオフしてください。60秒以内にログオフしない場合、緊急処理として強制ログアウトいたしますのでプレイヤーデータの保証は致しかねます。繰り返します。緊急メンテナンスを――』

「あ? あんだって? おい、シノブ早くログオフしないとやばそうだぞ!」

「ま、待てよ……あと20メートルであのラージ級が射程内に入るんだから……」

 1,520メートル先の獲物をレアスキルで測距する。

「んなこと言ったって、強制ログアウトされたらなんかやばそうだぞ!」

「あと、10……5……」

 照準を合わせ、獲物が射程内に入ったと同時にトリガーを引く――それと同じタイミングでシステムから強制ログアウトさせられた。

 そのとき、頭の中で閃光が走ったような感覚と、めちゃくちゃ頭痛がして全身に激痛が走った――


 ――気がつくと自室の部屋のベッドの上に戻っていた。

 ふぅ~、無事ログオフできたようだ。ギアをずらしてスマホを見ると、まだ金曜の23時だ。

 あれからまだ1時間もログオンしていないぞ? なんで今日はこんな突然のメンテナンスなんてやったんだ? あとで運営にクレームメールを入れてやる。

 シューメイも間に合っただろうか? なんかオレが足引っ張っちゃったみたいだからあとでメッセージ入れておくか。ログオンできそうもないから、頭からギアを外す。


 猛烈な睡魔に襲われ、寝落ちした。


 ◇


 寝落ちする前に見た時刻はたしか23時……早寝をしたせいか、自然と目が覚めた。

 枕元のスマホを手に取り時刻を確認すると、ちょうど6時だった。

 まだ少し頭痛が残ってる。

 頭を振るとサラサラと髪が顔に当たる……ん? 髪? そんなに長髪じゃ……あれ? しかも金髪? え? ゲーム……VRMMORPG BulletS内……じゃあないよな?

 ギアを頭にかぶってみる……なんかでかい?

 んんん? まだ寝ぼけてるみたいだ。とりあえず顔を洗ってトイレに行こうとベッドから起きあがる……あれ? なんか見たことがある小さな手……足も小さい。おまけにパジャマもでかい。

 なんとな〜く嫌な予感がしたので、鏡を探す……も、独身男の部屋には鏡なんて置いてないから、スマホのカメラアプリで……あれ顔認証できない。


 仕方なくパスコードを入れ、カメラアプリをタップ。モードをフロントに切り替えると、そこにはゲーム内のTHX-1489が映っていた――


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