「なあ、和真あ〜。明日の夜にさ、合コン行こうぜ」
「いや、ちょっとパス。会社で急に出張に行くことになって。現地までの移動方法とか最寄り駅とか……えっと、色々下調べしときたいから」
「ちぇーっ、仕事人間が! 仕事ばかりでプライベートも時間作らねえと、将来定年退職してから気が抜けて廃人になっぞ」
「ああ、その点は大丈夫。だって僕は趣味が充実してるからね」
「はいはい、読書ね。……お前さ、じいさんになったら縁側でロッキングチェアに揺られながら一人で読書に
「それっ! 最っ高じゃん! 僕、それは理想の年の取り方かも知れない」
「和真なあ。……はあ〜っ。お前ってそういう奴だったよな、まったくぅ」
電話越しに幼馴染みの
「お前ほんと、合コンとか参加しないよな。そんなんじゃいつまで経っても彼女できないぞ」
「分かってるよ。……合コンとか苦手なんだから仕方ないだろ。あと、コミュ障だし、女の子となんかどう喋れば良いのかなんて全然分かんないんだから」
あれはいつだっただろう。
否が応でも思い出す、大学のサークルでの凹む遠い思い出。
二つ上の先輩から映画に誘われた。
『彼女いない歴=年齢な僕でも……良いですか?』
『ちょっと無理かも。私、リードしてくれる人が良いんだよね』
僕のことをちょっと気に入ってくれてるらしいと勘違いしていたんだ。
颯が気を回して、先輩に暇つぶしにでも誘ってみてほしいって頼み込んでいたと知った。
親友だし、颯はさ、僕のことを思ってのことだ。
だけど――。
まあ、けっこう惨めだったよね。
――いつか彼女ができて、いつか自然な流れで結婚ができる。
そんなのは都合の良い夢まぼろし、現実には僕みたいな不器用な人間には恋愛ごとは手厳しく雲の上の出来事にすぎない。
「ああ、まあ今回は出張だってんなら仕方ないけど。俺は諦めずにお前を誘うからな」
「ありがとう。……そんな心配しなくっても」
「親友だろ? 俺はお前に助けられてばっかりだから、お前のことも助けたいんだよ」
「その言葉と気持だけでじゅうぶん。颯みたいな明るい人間が僕と友達でいてくれるだけでありがたいんだから」
「……和真お前、」
「なに?」
「やっぱ、ほんと! 良いヤツだよな〜! 純粋で女性経験無し。この先変な女に騙されるなよ? 俺は一番それが心配だよ。出会ったばかりの魔性な女に骨抜きにされて高級な壺を買されるとか高い保険とか入らされんなよ」
「あるわけ無いじゃん」
「騙されないと思った人間が一番騙されんだから、重々気をつけろよ。……なあ、ところで出張で一人で行くわけ?」
「ううん、会社の先輩と二人で行くんだ」
「そっか。方向音痴だから心配だったが、先輩がいるなら大丈夫だな。……男の先輩?」
「…………」
「えっ? 女性の先輩?」
「うん、まあ」
「女性が苦手なのに二人っきりとか大丈夫かよ?」
「大丈夫だよ、仕事だし。それに先輩とは仕事の話なら普通に喋れるから」
もう、どんだけ心配性なんだよ。
颯は親友だけど、オカンみたいなんだから。
「そっか。気を付けて行って来いな。ああ、土産なんて要らないから、えっと酒のツマミになりそうなものとか買って来なくって良いから〜」
「はいはい、買って来るよ。ついでに一人暮らしが食べるのに手軽なお惣菜になりそうなものも探してくるよ」
「おおーっ! それは助かるぜ。和真、楽しみにしてるー」
颯に、さっきまでの不機嫌さはもうない。
まったく、颯はげんきんなんだから。
だけど、颯みたいに気さくに話したり出来る親友がいて、僕は良かった。