「ねえパパ。このビー玉どうやって入れたのかなぁ?」
さわやかな五月さつき晴れの午後である。父と息子が公園のベンチでラムネを飲んでいた。
「
「ええ、これビー玉じゃん。ぼくの持ってるのと同じだよ」
「これはね、エー玉っていうんだよ」
「エー玉。なにそれ?」
「この玉はビンの栓の役目をしているだろ。だから完全な球体じゃないといけないんだ。それでA級品を使う。すこしでもいびつな玉は、B級品として捨てられる運命なんだよ」
「え、捨てられちゃうの。もったいないよ」
「そう思うだろう。だから駄菓子屋でビー玉という名で、子供のおもちゃとして売られているのさ」
「ああそうか。だから家にあるのはビー玉なんだね。だけど、どうやったらエー玉が瓶に入るのさ」
「ラムネの口は最初大きく開いているんだ。そこへ完全な球体のガラス玉を入れる。そうした後で熱を加えて口をすぼめるんだ」
「ふうん」
「ところで智、エー玉とビー玉のお話をしてあげようか」
「うん。どんなお話」
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ある日、双子が生まれました。ふたりとも玉のように可愛い女の子でした。でも少しずつ違いがあったのです。
姉の
瑛子は非の打ち所がない容姿と性格で、吉原の遊郭で
性格のいい美妃子は、すぐに子供達がなつき、村一番の人気者になりました。そしてたくさんの子供の笑顔に囲まれて暮らす日々だったそうです。
それに対して瑛子の方は、男衆からたいそう人気が出て「吉原にお瑛あり」と言われるぐらいの有名な花魁になりました。
瑛子は一度だけ美妃子を街で見かけたことがあります。
花魁道中の最中でした。美妃子は小さな子供達を連れて、道の隅から瑛子の姿を眺めていたのです。
大輪の花のような唐傘をしたがえ、きらびやかな着物をまとい、黒い漆塗りの高下駄で、しゃなりしゃなりと歩くお瑛の姿はまさに天女のようでした。美妃子の瞳から流れ落ちる涙に、お瑛は長いまつ毛を揺らしてサインを送ったそうです。
時代は移り、遊郭が法律で無くなることになりました。お瑛は地方の豪商の若旦那に見受けされることになったのです。
その後、瑛子と美妃子が再開を果たしたのは、それから40年後のことです。二人は手を取りあって見つめ合い、いつまでも笑っていたのだそうです。
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「智。瑛子と美妃子、さてどっちが幸せな人生だったと思う?」
「パパ。このお話ぼくにはちょっと難しすぎるよ」