ようやく日本にも西洋化の波が押し寄せて来た。
明治の時代になり、それまで外国との交流がほとんどなかった日本は、積極敵に外国文化を吸収しようとしていた。いわゆる文明開化のはじまりである。
横浜に一艘の外国船が停泊している。
「あれが日本人か」
商人のトーマスが港を行き交かう人々を見て言った。「まるで黄色い猿みたいだな」
「野蛮人さ」通訳のデイヴィスが唇を歪めた。
「なにしろいつでも剣を腰に下げていて、お詫びの印に腹を切るのだそうだぜ」
「へえ。そんな風には見えないけどなあ。それにしてもなんであんな散切り頭をしてるんだい?」
「ああ。あれはチョンマゲを切ったからさ。まあ、日本人てやつは、ちょっと変わった民族なんだよ」
「おい、約束のお客さんが来たぞ」
トーマスは懐中時計を開いた。「ずいぶん時間に正確なんだな」
「日本人は几帳面なんだ」
ひとりの日本人がタラップを上がってくると深々とお辞儀をした。
「はじめまして。わたくし
「やあ冨田さん。はじめまして。ぼくはトーマスと言います。アメリカで貿易商を営んでいます」
そう言って手を差し伸べた。デイヴィスが冨田に通訳をした。
「こ・・・・・・これが握手というものなのですな」
ぎこちない笑顔を作って冨田も汗ばんだ手でそれに応えた。
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「日本人はアメリカ人に憧れているからさ。とにかくなんでも真似をしたがるんだってよ」
トーマスの友人がそう言った。
「世界の田舎者なのにか?」
「
「今度日本の商人と取引をすることになったんだ」
「へえ。何を売ろうっていうんだ?」
「飼料だよ。なにしろアメリカじゃ、めちゃくちゃ余ってるからな」
「ちょっとからかってやったらどうだい」
「どうやって?」
「これはアメリカで最もポピュラーな美味しいスープの材料ですって売りつけてやるのさ」
「家畜の餌をかい?そりゃいいや。日本人にはお似合いかもな」
ふたりは腹をかかえて爆笑した。
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数年後、トーマスは再び日本に訪れることになった。
人力車に乗って街道を通り抜ける。日本の進歩は凄まじく、以前日本に来たときにはなかった西洋風の建物があちらこちらに建ち並んでいた。
「こいつは驚いた。風景まで西洋風に変わっているじゃないか」とトーマスはデイヴィスに言った。
「よく見ると、女性もなかなか美人が多い」
「そうかな」
トーマスは笑った。
今日は国家の要人に招待されていた。人力車は荘厳な建物の前で停車した。高級レストランのようだった。
「ようこそいらっしゃいました」
給仕が丁重に出迎えてくれた。国家の要人はすでに着席していて、トーマスが現れると席を立って握手を求めた。
「遠いところ、わざわざお呼び立てして申し訳ございません」
「いいえ。とんでもありません。本日は夕食にお招きいただきましてありがとうございます」
デイヴィスが要人に通訳をする。
「いつもわが国のためにご尽力いただき、誠にありがとうございます。今日はほんのお礼の晩餐をご用意させていただきました。お口に合いますかどうか」
給仕が最初に運んで来たのはコーンのスープだった。トーマスとデイヴィスは顔を見合わせた。デイヴィスは口を歪めて肩をすくめた。
(アメリカじゃこんなもの食わねえよ。どうしてわたしにこんな物を?まさか嫌がらせじゃあるまいな)
トーマスは一瞬ひるんだが、半笑いでスプーンを口に運んだ。衝撃が走った。それは予想外の味だったのだ。
それ以来トーマスは日本人に対する考えを改めた。
日本人恐るべし。ゴミでも宝に変えてしまう技と力を持っている!