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徳川埋蔵金

「徳川埋蔵金の話は知っているかい」

 ぼくはいぶかしげな眼差しを向けてくる母に向かって質問を投げかけた。

「江戸幕府が大政奉還のときに、政府に取られる前に財産を隠したっていう伝説のことでしょ」

「そう。それは伝説なんかじゃない。真実だとぼくは確信しているんだ。当初、多くの埋蔵金ハンター達は群馬県の赤城山を目指した」

「なぜ?」

「そのとき勘定奉行をしていた小栗おぐりという人物が、徳川再建のための軍資金とおぼしき物を、密かに赤城山の山中に移送しているところを見たという目撃者が現れたからさ」

「それで埋蔵金は見つかったの?」

「いや」ぼくはとても残念という顔をして首を横に振った。「大捜索にもかかわらず、400万両ともいわれる埋蔵金はいまだに発見されていない」

「400万両!それじゃあ、隠されたのは赤城山じゃなかったんじゃないの」

「うん、今では赤城山は埋蔵金を見つけられないようにするためのおとりだったんじゃないかという説が濃厚なんだ」

「それじゃあ、ほかに当てがあるのかしら」

「いくつもあるよ。『日光東照宮説』『二荒山ふたらさん神社説』『男山説』『中禅寺湖説』『榛名山はるなさん説』『足尾銅山説』『上野東照宮説』など、上げれば切りがないほどにね」

「そんなにあるのなら、埋蔵金を掘り当てるなんて到底無理な話じゃないの」

「そうなんだよ母さん。でもね、今朝がた奇跡が起きたんだ」

「奇跡ですって!?」

「いやびっくりしたね。突如として“秘密の地図”が浮かび上がったのさ」

「どこの地図?」

「うん、子細に調べてみたところ・・・・・・どうやら静岡県の久能山東照宮の地図にそっくりだったんだ。いいかい、徳川埋蔵金ハンターが絶対に探さない場所はどこだと思う?」

「それが久能山東照宮だっていうの?」

「当初家康の軍資金は久能山東照宮に集められた。そこから日光へご神体と一緒に移送されたと言われていたんだ。要するに、だれも移送したあとのからっぽの場所に埋蔵金が残されているなんて思わないからね」


 ぼくは満面の笑みを母に向けた。

「・・・・・・で、そうやって君は自分のしでかしたオネショを正当化しようというわけだな」

「・・・・・・ゴメン」

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