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絹の道

「またもや遣唐使けんとうしが襲われてございます!」

 長い廊下を走ってきた烏帽子えぼしを被った側近が、息を切らせて神武天皇にひざまづいた。

「なに!またしても盗賊に宝物ほうぶつを略奪されたというのか」

 天皇のこぶしに力が入り、ブルブルと震えた。持っている扇子が今にも折れそうである。

「いかがいたしましょうか?」

「護衛を強化しなければならぬ」

「しかし陛下。今回も腕利きの侍を6人も随行させたにもかかわらず、またしても盗賊にしてやられたのですぞ」

「ううむ・・・・・・そうだ!ならどうだ」

「あれと申されますと?」

「だから、だ」

「まさか・・・・・・でございますか」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 全長六千四百キロメートル。ユーラシア大陸を横切る交易路を“絹の道(シルクロード)”と呼んだ。中国の絹織物やペルシャの装飾品など様々なものが貿易により、文化の交流も含めて流通していたのだ。その東の終点が、日本の正倉院だったと言われている。


 その日も日本に向けて、遣唐使が帰還の行進を続けていた。駱駝らくだの行列は敦煌とんこうを出発し、長安ちょうあんを経て、そしていま洛陽らくようを通過するところであった。

 ここで一行は、いったん駱駝に水をやるため休息を取ることにした。すると前方に四頭の馬が現れた。馬上に武器を携帯している男たちが乗っている。

 左右を見渡すと、同じように四頭ずつの馬が平行してついてきてるのが見える。まさかと思い、背後を振り返ると、やはりそこにも騎乗の男たちがヒタヒタと近づいてきているのが見て取れた。

「・・・・・・囲まれたか」

 四方を見ながら遣唐使のひとりが慌てはじめた。

「薄々感づいてはいたがな」と小柄な男が言う。

「本当か?」

 遠巻きにした馬が、遣唐使の一団に急速に間合いを詰めて来る。盗賊の首領なのだろう。先頭の男が声高に叫ぶ。

「荷物を置いていけ!そうすれば命だけは助けてやる」

 通訳が遣唐使に伝える。

「嫌なこったと伝えろ」小柄な男が通訳に言い放つ。通訳は一瞬うろたえたが、とりあえずそのまま伝えた。

「タオ ヤン スィ リィ」

 盗賊のボスの獣のような目がキラリと光り、大声で手下に合図を送った。

「シャー(殺しちまえ)!」

 その号令を聞いて盗賊たちは一斉に遣唐使たちに襲い掛かってきた。

 次の瞬間、いくつもの地面が生き物のように盛り上がり、その手に持った鋭い槍の切っ先が盗賊たちの馬の腹や脚をことごとく抉えぐっていた。

 驚いた馬たちは、馬上の盗賊たちを振り落として逃げるか、横倒しになってしまったのである。

 起き上がった盗賊たちは、小柄な男に刀剣を振りかざした。しかし刀剣は空を切るばかりで、男はニヤニヤ笑っているではないか。しかも、小柄な男はひとりではなかった。同じ顔の男が二人に増え、さらに三人になり、最後には十人の同じ男がニヤついていた。

「妖術使いか。お前たちは何者だ!」

「わしか。わしは伊賀の忍者、服部半蔵だ」

 そう言うと、10人の服部半蔵が一斉に手裏剣を投げ、次々と盗賊たちが倒れて行った。

 さらに砂の中から飛び出して来た忍者たちによって、逃げようとした盗賊たちは一人残らず縛りあげられてしまった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「さて、話してもらおうか」

 服部半蔵は、高さ10メートルはあろうかという巨大なガマ蛙の背中に乗っていた。蛇に睨まれたカエルのように、盗賊の親分はガマに睨みつけられている。

 恐れをなした盗賊のボスは全てを白状してしまった。なんと盗賊を雇ったのは、宝物を売る商人たちだと言うのだ。高い値段で売ったものを、盗賊に盗ませて、また売るという悪事を繰り返していたのである。


 その後、超人的な忍者たちの働きが多くの人に知られるようになり、それをヒントに後年、曲芸団がつくられるようになったという。

 それが『シルク・ド・ソレイユ』という名前かどうかは定かでない。

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