「堀越先生。気がついたらぼくはゼロ戦のパイロットになっていたのです」
「零式艦上戦闘機のことですか」
「そうです。先生はあの戦闘機を設計されたそうですね。どうやって作られたのですか?」
「話せば長くなりますが・・・・・・」
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「戦闘能力に優れ、スピードが速く、運動性能が傑出していて、航続距離が長い戦闘機の開発をお願いしたい」
海軍の出した要請は無理難題そのものだった。
「せめてその中での優先順位を教えていただけませんか」と堀越二郎は問いかけた。
「空中戦で負けない性能が第一だ」
「いや戦闘能力はパイロットの腕でカバーできる。爆撃機の援護が最優先。航続距離が必要だ」
「敵を逃がさない速度が一番。そして、一発で仕留める武器が必要だ」
このように、海軍の各部署ごとに優先順位の思惑が違うのだった。
堀越はエンジニアたちに言った。
「これは徹底した軽量化を図るしかないな」
「しかし、そんなことをしたら機体の防御力が低下してしまいます」
若きエンジニアたちは反対だった。
「いまゼロ戦に搭載できるエンジンは他国にくらべると出力が低い。苦渋の選択だよ」
「軽さと引き換えに、パイロットが危険にさらされることになりますが・・・・・・」
「パイロットの腕でカバーしてもらうしかないんだ。要は敵の玉が当たらないぐらいに速い飛行機を作ったら問題ないだろう」
「なぜ航続距離がそんなに必要なんですか?」
「日本が海に浮かぶ島国だからだ。中国本土を攻撃する爆撃機の援護が必要なんだよ」
零戦は防弾ガラスはもとより、防弾用の鉄板まですべてを取り払われ、機体の鉄板をさらに薄くした。
「そうだ、あと20mmの機関砲を搭載しよう」
「アメリカの戦闘機でさえ標準が7.7mmですよ。せめて12.7mm砲で充分ではないでしょうか」
「あの速いアメリカの攻撃機には、一撃必殺の武器が必要なのだ」
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「それでぼくは、颯爽とゼロ戦に乗り込み、日中戦争に加わったんです」
「初陣(ういじん)だね」
「はい」
「それで、戦果はどうだった?」
「33機の敵機に対し、13機のゼロ戦で闘ったのですが、相手は全滅。わがゼロ戦はほぼ無傷の大勝利に終わりました」
「そうか。それはよかった」
「その後、ゼロ戦が圧倒的に強かったので、世間では『ゼロファイター』と言われて恐れられたんです」
「ほう」
「アメリカなんかは空軍に対して、ゼロ戦とは闘うべからずという御触れを出したほどなんですよ」
「向かうところ敵なしだな」
「ところがですよ先生。敵も猿もの引っ掻くもの」
「なんだね」
「アラスカとロシアの間にある、アリューシャ列島に不時着したゼロ戦を、アメリカ軍が回収しちゃったんですよ。まるでロズウェルに落ちたUFOみたいに」
「それで?」
「徹底的に研究し尽くされて、ゼロ戦の弱点の右旋回と急降下に弱いってことがバレちゃったんですよ」
「ふむふむ」
「それでこの体ていたらくってわけなんです」
「どうでもいいけどね。いくら君が『ゼロファイター』だからといって、わたしのテストで0点が許されると思ったら大間違いだからな」
「やっぱり」