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シン・ジダイ小説
杉村行俊
歴史・時代日本歴史
2024年12月05日
公開日
41,754文字
連載中
第一話 坂本龍馬と沖田総司は人知れずマブダチだった。余命わずかだと知った沖田は龍馬にある提案を持ちかける。
第二話 三保の松原に天女が降り立った。羽衣を漁師に盗られた天女はある行動にでる。
第三話 秀吉から無実の罪を着せられた千利休は、町人であるにもかかわず切腹の刑となる。利休の最期の願い事が後に大変なことになるとも知らずに・・・。
第四話 赤穂浪士事件にはふたつの謎があるという。喧嘩両成敗がなされなかったこと、主君の仇討ちが正当化されると思ったこと。大学の教授が生徒にその謎を解き明かす。
第五話 大坂夏の陣で真田幸村は徳川家康を追い詰めた。ではなぜ家康は討たれることがなかったのか。そこには家康の一言があった。
第六話 忍者と勘違いされた(?)俳人松尾芭蕉が東北の旅に出る。
第七話 東京駅を設計した辰野金吾は孫にねずみの居場所を訊かれて困ってしまった。とっさにいま建造中の物件を思い出して・・・
第八話 小林一茶は長男にもかかわらず、東京に奉公に出されてします。ストレスを抱えた一茶は次第に俳句の世界にのめり込んでいくのだった。
第九話 ある生徒が堀越二郎に自分が零戦のパイロットであることを明かす。
第十話 北条と豊臣のどちらにつくか決めかねていた伊達政宗は、一世一代の芝居を打つことにした。戦国での生き残りをかけた政宗のパフォーマンスを描く。
第十一話 金栗四三は日本人で最初にマラソンランナーとしてオリンピックに出場した。
第十二話 香川県がうどん県になった由来は空海の壮絶な人生と共にあった。
第十三話 外国人のお客の依頼で、招き猫の寛太が招き猫の歴史を説明をする。
第十四話 島原の乱で不本意ながら副隊長に任命されてしまった主人公が密かに幕府軍と密約を交わす。
第十五話 法律により平民も苗字を作らなければならなくなった。困った農民たちはお寺の和尚にお願いすることにしたのだった。
第十六話 ある学生がモスクワ中央図書館で、卒論で乃木希典について調べようとした。そこに気のいい掃除夫が声を掛けてきた。

龍馬が逝く

「坂本龍馬、覚悟!」

 ここは近衛屋このえやの二階である。十津川郷士を名乗る刺客たちが勢いよく襖を開け放った。賊の足もとには、たった今斬られたのであろう、従僕の山田藤吉が倒れていた。

「何者だ!」まずは同席していた陸援隊の中岡慎太郎が斬られた。

「?」

 龍馬と呼ばれた男は、杯を傾けたまま虚ろな眼差しを賊にむけるのだった。


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「龍さん。悪いことは言わない。しばらく池田屋には近づかないほうがいい」

「総司。おんし、そがなん言うてだいじょうぶか」

 沖田総司は壁を一枚隔てて、背中越しに龍馬と話をしていた。

「わたしは坂本龍馬という男に惚れています。あなただけは、斬りたくない。生き残ってもらいたい」

「池田屋に討ち入るがか」

「そうです。浪人狩りをします。ですが、龍さんが言うように薩長が手を組むとなれば、幕府も最早うかうかしていられませんね」

 その時、尊王攘夷の志士たちが沖田総司に近づいて来ていた。

「しっ。龍さん、見ていてください」

 龍馬は壁の穴に目をつけた。そして、懐から銃身の長いピストルをするりと出すと、いざという時には沖田の援護をしようと構えたのだった。

 沖田総司は刀を抜くと、低く平正眼の構えを取った。賊の3人が刀を振りかざした次の瞬間、沖田は大きく一歩踏み出すと、その足が着地するよりも速く、稲妻のような速さで3本の突きを繰り出していた。沖田の右足が着地したのと、3人の賊が倒れたのがほぼ同時であった。

 龍馬は「ひゅう」と口笛を吹いた。

「今のが巷でいう新選組一番隊組長、沖田総司の『三段突き』かね」

 沖田は刀を収めた。「北辰一刀流、免許皆伝の坂本龍馬なら簡単にできますよ」

 龍馬は笑ってこたえた。

「わしにはできんぜよ」

「・・・・・・龍さんに折り入って相談があります」


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 1864年7月8日の夜半、京都三条の池田屋に潜伏していた攘夷派志士の一団に対し、近藤勇を隊長とする京都治安組織の新選組が踏み込んだ。その中には沖田総司も主力として動員されていた。


 狭い旅籠での戦闘は、熾烈を極めた。沖田総司の疾風のような太刀裁きも、狭い旅籠の中では、柱やはりが邪魔になって思うように展開できないようであった。数人を倒した後、とつぜん喀血した沖田はその場に倒れ込んでしまった。

 結核である。蘭法医の松本良順の診察によれば、余命半年余りとのことであった。だが、沖田総司はその病気を誰にも、近藤勇にさえも悟られることなく今まで隠し通してきたのだ。

 この喀血により、沖田は病床につき新選組の第一線から退くことになる。


 あくる日、沖田は申し合わせた通り坂本龍馬と入れ替わった。長身の二人は、背格好がよく似ていたので、着ているものを交換するだけで顔をよく知らない者にとっては区別がつかなかったという。

「おや、沖田どの。これは不思議なこともあるものだ。一夜にして結核がすっかり治っている」

 往診に来た松本良順は大袈裟に驚いてみせた。

「先生もお人が悪いやね」頭をかきながら龍馬が苦笑いをする。

「お父上」そこへ良順の娘が飛び込んできた。眼に大粒の涙をためている。「沖田さまが!」


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 沖田総司は帯刀していなかった。病魔により、起きているのがやっとの状態だったのである。敵の刃はまともに沖田の額に深く突き刺さった。声を立てる間もなく、二の太刀、三の太刀が沖田の身体を切り裂いていた。

「おい、これが本当にあの坂本なのか」

「さあ、分からぬ。あまりにも無抵抗すぎるな」

 刺客たちはそのあっけなさに逆に恐れおののき、そそくさとその場を後にしたという。


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「先生。ほんなら、わしもこれにて死んだことにしとうせよ」

 松本良順は手を洗って渋々答えた。

「まあ、いいだろう。結核患者の棺桶なんざ、漬物石が入っていたとしても、番所も開けやしねえだろうからな」

 龍馬の頭の中に、先日の沖田との会話が鮮やかに蘇ってくる。

「龍さん。わたし達は間違っていたのですかね」

「そがなんはないぜよ。やり方が違うだけで、みんな日本のために働いただけなのさ」

「どちらにしても、わたしにはもう先がありません。龍さん、この国の将来はあなたに任せます」

「総司。寂しいこと言いなさんな。わしたちの絆は永遠ちゃ」


 幕府が倒れ、明治政府が発足したのはそれよりも少し後のことである。その後龍馬は、寺田屋にかくまってもらっていた恋女房のお竜とひっそりと暮らした。

「新婚旅行以来じゃな」

 快活に笑う龍馬に、お竜も微笑みながら寄り添うのであった。

 時々西郷隆盛や木戸孝允などが、隠密で面会に来ていたようである。当の本人は「わしなんかヒモのような生活ぞね」と自嘲していたが、まんざらでもなさそうである。


 坂本龍馬は歴史の表舞台から消えた。しかしその後も影の実力者として、日本の発展に君臨したのだという。

 人びとは龍馬のことを、暗号で“布利居迷村ふりいめいそん”と呼んでいたという噂が残っている。信じるか信じないかは・・・・・・

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