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第27話 ウサギ

 椿希は勢いよくウサギの背を掴むと、ひっくり返し一撃。心臓があるだろう場所を刺した。

 ウサギは鳴かないなんて嘘だ。プキキ ! ともがいて反抗する。

 自分と同じ哺乳類とはいえ、素人が正確な心臓の位置を突くのは不可能だ。パタパタともがく手を握り、胸部を滅多刺しににする。


「はぁーっ、はぁーっ…… ! 」


 テーブルの上に横たわったウサギ。前屈みになり、椿希の表情は先程の軽口を叩いていた人間とは思えないほど大人しく、別人のようだった。

 悲しみ。同情。罪悪感。表現は沢山あるだろうが、そのどれもが当てはまった。

 まだ、ただの小悪党だ。不要な人間は処分出来ても、女子供は殺せない。椿希はそんな性分だった。


 一方、蛍は。

 そんな椿希の様子を感じながら、固定されているルキの右腕をチラりと見る。


「…… ? ケイ ? 何も心配いらないよ ? 」


「別に」


「残念だったね。俺を殺すルールは無くなったし、俺の肉も食べれなくなったけどさ。利き腕が無いなんて刃物好きには痛い話だ。十分、今後を考えればハンデだよ。

 なにを迷ってるの ? 」


 蛍は。食べなければいいのだ。

 ペナルティーはルキが受けるのだから。片腕を失うのはルキだけだ。

 本来、Mの提示したルールでルキにダメージを与えるなら、これが正攻法。

 しかし、蛍は敏感にMという白い男の不気味さを本能で感じていた。


「Mが気になる ? 」


 ルキが声のトーンを落とす。


「ああ。ルール外の事をしたら……躊躇いなく俺もどうにかなるだろ…… ? 」


「流石、鋭いね。

 でも、ケイ。なにか勘違いしてるといけないから初めに言っておくよ。

 俺は幼少期に拾われてからずっと、Mに感謝する毎日を送って来た。彼は子供を奴隷にして虐げるような男ではないんだ」


「ふーん。じゃあ、なんであんたはこの世界に居続けるんだ ? 百戦錬磨のデスゲーム王 ? 結局、あいつがそうお前を手懐けたんだろ ? 」


「いいや。それは違うね。このポジションに就くとき、俺は前任者と揉めに揉めてね。それでゲームは過激になっていったのさ。

 Mはこんな俺を望んでない。後継者を探してるんだ」


「じゃあ、あんたが上の組織を継ぐのか ? 」


「……それはどうかな…… ? 」


 Mは自分の手元へ、ルキに戻って来て欲しいのだが、一度外の世界へ出したらルキは戻りたがらなくなっていった。

 ルキにとっても、あの貧困から救い出してくれたMに感謝はしている。ゲームマスターの潮時が来たら、それも良いかと考えてはいるのだ。Mの為ならなんでも意のままに……仕事はこなす。

 ただ一部を除いては。


「ケイ」


「なんだよ……」


「どこか行きたいところある ? 」


「はあ !? あんた、自分の腕の心配してろよ」


 消えない過去。

 絶対にMを許さない一つだけの罪。

 ルキが『M』になる事はありえないのだ。


 ルキは一度深呼吸をすると、蛍に目一杯の笑顔を見せた。


「生きて、会お。

 さぁケイ、やっちゃって」


 蛍の中にある、ほんの少しだけの高揚感。

 コレはウサギを殺すことか ? それともルキの腕が失われる事か ?

 ふと、椿希の方をまた伺う。

 耳や生肉は何とか切り分けているようだが、食べにくそうに、何度も水を飲んで苦戦している。

 その姿を見て、蛍は本当に自覚してしまった。自分は常人とは違うと。

 幼少期……最初のターゲットは人ではなく小動物だった。そしてその血肉を身体に取り込んで来たこと。人間に対象が変化し、最初に手を伸ばしたのは斎場の死人相手だった。やがて──生きた人間に。

 自分は本当に異常者なのだと悟ってしまった。


「……やるよ、ルキ。なんだっけ ? デート一回 ? デートごときで利き腕のペナルティーか。ご苦労さま。

 でも、マジで勝っちゃうから意味ないよ」


「ふふ。そう ? 期待してるよ」


 蛍はウサギの足を掴み逆さにすると、ペティナイフを首に突き刺す。その首をテーブルから垂らし、吹き出す血をものともせず、手早く胴体の皮を剥いで行く。


「おぉー ! 」


「あのガキ慣れてやがんな」


 観覧者達は蛍の手捌きに唸った。


 丸裸になったウサギの死骸。

 その腹を捌き、内臓を傷付けず取り出し、そこから食す。

 鮮度が命の獣肉は時間が経つほど臭みが増す。胴体は血抜きしつつ、鮮度のいい内臓からかたをつける気だ。


 隣の椿希が大きく「オエッ」っと嘔吐いたのが聞こえる。

 差し掛かったのは同じくウサギの内臓だ。

 胃や腸にはまだまだ内容物が蓄積していた。

 しかし蛍のナイフとフォークは止まらない。


「マジかよ、けい〜。なんで食えるの〜 ? 」


 隣の檻から椿希が蛍の勢いを見て口をへの字に曲げていた。


「ウサギの食べ物を考えれば人体に害はないよ」


「そういう問題じゃな〜い〜 ! 」


「ウサギって自分のウンコも食うじゃん。だから大丈夫じゃない ? 」


「え、それってプラス思考になるの ? ウッ、ウプ…… !! 」


 椿希の口から溢れ出す飲み込んだはずのもの。

 行き場を失い迫り上がるが、何とか口を塞ぎ必死で耐える。


「フゥー !! フゥーッ !! 」


 血液には『催吐性』がある。血抜きを行わず、滴り落ちる状態の生肉を食べたのが嘔吐の原因の半分。残りは生理的に椿希が常人だという事だ。

 急ブレーキとは上手い例えで、本当に椿希は内臓を引き摺り出したところで手が止まってしまった。

 ウサギの臓物は、やはり人間とは全く違う。

 蛍が内臓を破らず、丸呑みしているのと対象的に、椿希は早々に胃も、腸も、ナイフで切り分けてしまった。そのため、消化器官の内容物が全て皿の上で広がり、異臭を放つ羽目になった。


「ジェームス」


 Mは蛍を観続けながら、側近を呼びつけた。


「スミスに言って、あの少年……涼川 蛍の詳細を受け取って来なさい」


「はい」


 ジェームスの消えたあと、Mの瞳には蛍が映り続ける。切っては食い、切っては食い。躊躇いなく生肉を頬張る蛍の姿。それも、美果の時ほど、食べにくさも感じられない。普段から『似たもの』を口にしているか、とんでもなく馬鹿舌なのか。


「ほう。ルキ……あの少年に目をつけて、この町を動かないのだな」


 最初は蛍の以上な気迫に押されたMだが、この男が今まで会って来た者達を考えれば、男子高校生のサイコパスなど些細な存在だ。

 しかしどこか蛍の姿は魅力的で、懐かしい気持ちに駆られる。


「お持ちしました。こちらが身辺調査書でございます」


「はは。見ろ、ジェームス。あの少年、どこか昔のルキに似ているんだよ」


「あの少年が……ルキ様にですか ? 」


 Mはそのまま書類に目を落とす。

 簡単な名前、年齢、高校名、自営業の業種などに加え、趣味趣向が書かれていた。

 しかし、小さな頃のルキを知るMだ。ルキと蛍がどんな関係になのかは手に取るように理解した。


「全く……手がかかる。良くないな。熱を上げすぎて狂い始めているかもしれん」


「熱をあげる ? 」


「人の感情というものは恐ろしいからな。

 あいつの私生活には何も言わんだが、手足を失われては部下もわたしも困るのだ」


「確かに。ルキ様は優秀な存在ですし、怪我の療養期間だけでも惜しいですね」


「あいつが望んだからゲームをさせては見たが、あの少年は……。

 ルキはいずれ俺の跡継ぎになる男だ。そうはさせん」


 ハイスピードで平らげていく蛍を見て、Mは少し安心するが、開始より勢いが無くなってきたことに気づく。


「……まぁ。簡単な量ではない。2.6kgの通常の食事さえ、普段食べ慣れない量だ」


 蛍に立ちはだかった問題。


「くっ……」


 2.6kgという量。

 このウサギの血を抜いたとしても、蛍が普段

 食べる食事の量では無いのだ。骨の重さも抜いたところで2kg以下にはならないのだ。

 これは椿希と同レベルに辛いゲームになってしまった。更に、思った以上に美果の髪の量も効いていた。

 ウサギの内臓は皆が思うより個性的である。

 観覧者達も仮面の中の素顔に、思わず眉間に皺を寄せている。


 それでも蛍は内容物があるであろう部分は切開せず、そのまま口へ運び、丸呑みしていく。

 それにMは気付いたいた。

 慣れ。

 蛍は食肉加工品以外の肉を食べなれている、慣れを感じる。

 長い腸の部分は途中で切ると、剥いだ毛皮を内側にし、包み込んで流していく。スルリと流れるものの、一口が多い。喉に負担がかかってくると、胴体の肉へ味変する。鶏のように弾力のある肉。

 その繰り返しだ。


 一方、椿希のフォークは完全に止まってしまった。少しの生肉を口にしただけで、普段口にする鳥や豚とは明らかに違う臭み。

 内臓と血液だけで時間がかかるほどキツくなる匂い。


「 !! ハフフッーーー !! フヘー ! 」


 猿轡をされた坂下が「食え ! 」と、椿希に抗議する。


「うるさいなぁ……。こんなん……ウプ……あ〜。

 そもそも俺ぇ〜。考えたら、伯父さんの腕喰うのも無理だったわ、あははは !! 」


「フゴーーーっ !! 」


 そんな椿希と坂下の小競り合いの隣、黙々と食べ続ける蛍を観察し続けるM。

 その脳内に浮かぶ、一つの疑問と予想。

 調査書にはルキと不仲でルキの護衛をしっかり行うという黒服同士の注意書きがあったが、逆なのではないかと。蛍はルキに本当に恨みがあるのだろうか ?

 蛍の性質性癖、異常性。望んでゲームに参加し、ルキを誘惑してまで檻に入れ巻き込んだ。

 蛍は『ルキに死んで欲しい』のでは無い。『自分がルキを殺したい』のだと。

 黒服が警戒する中、自然と蛍の側へ足が向かう。


「成程。ルキ、お前がこの少年に夢中になるわけだ」


「いえ、まさか……俺はそんな……」


 ルキが愛想笑いを返す。さすがのルキも、Mには何も隠せない。


「蛍。食べれ切れるのか ? 」


「普段少食ですが、何とか……頑張ります」


「ふむ……」


 Mが時計を見る。

 まだ二十分程しか経過していないが、椿希は既に諦めモードで観覧者からブーイングを受けていた。


「椿希、君はまだいけるのか ? 」


 この問いに椿希は簡単に答えた。


「行けませ〜ん ! 無理でーす」


 簡単に降参を認めてしまった。

 その言葉に、Mはなんの感情もない声色で頷いた。


「ならば決まりだ。お前も死ね」


「え !? はっ !? 待って待って !? 伯父さんは腕なのに俺は死ぬの !? 」


「真剣なゲームこそ、皆様が望むshowであるのにお前は貢献しなかった。二戦目にプレイヤーとして立候補したというのに根性が無い」


「う、うへぇ〜。でも、俺が死ぬってルールは違くないっすか ? ゲームマスターならルールは最後まで守って貰わないとぉ」


 急展開に付いていけず、パニックを起こす椿希を見て観覧者が笑い始める。


「あぁそうか。確かにそれもそうだ。フェアじゃない。

 じゃあ、ペナルティー者は殺す。お前が利き腕を差し出せ」


「う、うえーん。まじっすか ? えぇ !? まぁ〜じで ? 」


 Mは檻に入ると坂下の腕に付いていたノコを外させ、手に持つ。


「まずはお前だ」


「フゴー !! ごあぁぁぁ !! ふがきーーーーー !! 」


 ギャルルリィィィィッ !!


「うっげぇ」


 唸りをあげる回転刃を見て、流石の椿希も青ざめる。しかし逃げはしない。文句もたれずに、坂下の首が切断される瞬間まで目を背けなかった。


「フゴーーーー !! ゴポゴポ……ッ !! 」


 Mは容赦なく坂下の頭を鷲掴みにすると、一気に首を切り落とした。

 椿希は無言で、首から血を吹き上げ、

 ガクガクと痙攣する伯父を目に焼き付けた。もう逃げ場はないのだ。


 スミスはルキ側の檻に駆け寄ると、震える手で鍵を開ける。蛍とルキは檻から開放された。


「ケイ。ありがとね」


「単純に負けたくなかっただけ。

 ……お腹、苦しい」


 美果も客席から駆け寄ってくる。


「ケイくん !! 良かった !! 」


 強く蛍を抱きしめる。しかし蛍は鬱陶しそうにするだけだった。


「美果。これで無事帰れるね。

 そういえばルキ、椿希はなんの為に招待したんだ ? 」


「ん ? 坂下刑事の見せしめだよ。これから山王寺 椿希として生きるのなら、俺とはややこしい関係になると思うんだけど……椿希くんは海外進出も視野にあるみたいだし、色々使えそうだし。

 これからもよろしくねって挨拶さ」


 美果は呆れた様にルキを見上げる。


「それなのに、あんた椿希って子をゲームにかけるなんて……おかしいんじゃ……いや、おかしいのは元々よね」


 罵る勢いの美果にルキが口を尖らせる。


「美果ちゃん本当に嫌い」


「結構よ」


「椿希くんが立候補しただけじゃん ?

 Mは簡単に諦める奴は嫌いな性分なんだ。その逆鱗に触れただけだよ。

 それでも今日のMは随分機嫌がいい。何故だろうね……」


 ゴッ !!


 Mが掴んでいた坂下の首を、床に投げ捨てた。


「Foooooooooooo ! 」


 Mのパフォーマンスは会場のあちこちで盛り上がりを見せていた。


「蛍 ! 今回もおめぇに賭けたぞ ! 勝ったな !! 」


「あ。さっきの……ありがとう、おじさん」


「おう !! 俺ァまた、お前に賭けるぜ ! 」


 単細胞なのか、芯がぶれないのか、この中年男性はマスクからはみ出た目尻をくしゃくしゃにして笑っていた。


「またな ! 」


 そして最後。

 降参した椿希。

 Mは鮮血で真っ赤に染まったシャツのまま、椿希を見下ろしていた。

 椿希には少しの恐怖の色が見える。しかし泣きわめくことも無く、覚悟を決めて椅子に座る。先程までの軽薄な軽口を叩く子供とは面持ちが違っていることにMが気付く。


「面白い。しかし、普段の軽薄な様子は何も、お前に恩恵を齎さないと思うぞ」


「う〜ん。わざとではないんですよぉ。子供の頃から口が減らないものでぇ」


「なぜここへ ? 」


「ルキさんに招待受けて」


「入るには金がいったはずだ。どこから出した ? 」


「継いだ山王寺グループの中から……」


「ルキ、山王寺グループとはなんだ ? 」


「マフィアです。半グレからヤクザ崩れの者で構成された組織で、高学歴者が多いのが特徴です。詐欺やマルチ商法が得意で、人前に直接姿を現すタイプの犯罪が生業のようです」


「……減らず口は職業病か」


 Mがしょうもなさそうに椿希を見る。


「まぁ腕は諦めろ、出せ」


 そこへ椿希が右腕を差し出す。


「ふ……ふはは。お前、正気か ? それともサービスか ? 」


「マジでぇ ? すっげー ! 」


 Mを騙すことは出来ないのだ。


「何 ? 」


 美果がぽかんとしている側で、ルキが椿希が使っていたナイフを指差す。


「椿希くん。左利きだよ」


「えぇ ? あ、本当だ……」


 テーブルにはナイフがフォークの左側に並んでいた 。


 椿希は仕方ないとばかりに、台の上に左手を置いたのだった。


 □□□□□□


 入院五日目。

 蛍は美果と再び講習に行くと重明に偽り、闇医者の元で過ごしていた。


「はぁ〜…………」


「けいくん、またトイレ〜 ? 」


 ルキの見つけてきた闇医者は小さな雑居ビルで動物病院をしているモグりの医者だった。当然、入院をさせる程の規模のスペースはない。

 蛍、椿希、椎名は同室で過ごしていた。


「ほっといてくれ」


「いいよいいよ。行っトイレ〜」


「うるさいな ! トイレの度に反応すんな馬鹿椿希」


 部屋に備え付けのトイレのドアがバンっと閉まる。


「だってぇ〜。

 あ〜〜〜……痛ぇー。あ〜痛い。痛い痛い痛い〜 ! 」


「煩いぞ、山王寺 椿希 ! そもそもお前が要らん行動をしたせいで俺は巻き込まれた ! 」


 蛍は内視鏡を用いて胃の内容物を吐き戻させた後、下剤での治療を受けていた。

 椎名と椿希は仲良く無い腕の痛みと格闘中。


「まぁ義肢もタダで作れるらしいし ? 命あるだけマシかぁ〜」


「お前は本当にそうだ。関わらなければよかったものを、何故招待を受けたのか」


「なにをしてるのか見たかったんだ。梅乃様も会場の準備ばかりだったし」


「山王寺 梅乃が失踪後、何故お前なんかが組織を継いだのだ ? 」


「えぇ〜 ? 『お前なんか』って……しなモン、酷くねぇ ? 」


 椿希が椎名をしなモンと呼び、ベッドに戻ってきた蛍は顔を背けてニヤける。


「人をクマのゆるキャラみたいに…… ! 気安く呼ぶんじゃない ! 」


 むくれる椎名をものともせず、椿希は喋り続ける。


「ん〜。俺ぇ、梅乃様大好きっ子 ! 兄貴を助けてたっていうか、梅乃様にマジ惚れしてたから組に入ったんだよねぇ〜。

 その梅乃様は、『誰か』に殺されちゃったけど〜」


 横目で見られた蛍は、すました顔で聞き返す。


「行方不明って新聞に載ってたじゃん。本当に死んだのか ? 」


「うーわっ ! 聞いたぁ ? しなモン !! 白々しいよねぇ〜 ! けいくんのそーゆーとこ嫌ぁ〜い」


「それは同感だ。涼川 蛍、お前はルキ様に気に入られすぎだ」


「椎名さん、流石に知らないよそんな事……」


 苦笑いで受け流す蛍に椿希は追い打ちをかける。


「そーいえば。けいくん、ルキさんとキスしてたじゃん」


「な、なんだと !? 」


 身を乗り出す椎名を、蛍は否定し落ち着かせる。


「違いますよ。あれは……ああいう誘い込み方が、あいつは一番ノってくるからやっただけだし……」


「お前 ! ルキ様をなんだと思ってるんだ ? 」


「なんでも無いですよ。椎名さんも知ってるでしょ ? 俺はルキの敵ですよ」


「ふん。どうだか……」


「しなモン…… ! まさかラブ ?! けいくんとルキさんの三角関係 !? 」


「「違う ! 」」


「俺はルキ様の右腕であり腹心だ。そんな下品な理由では無い ! 」


「命のやり取りし合うラブって、お前本当に頭おかしいし ! 俺にそんなつもりない ! 」


「二人ともムキになってる ! 怪しい〜 !! ルキさんって、けいくんに優しいしさぁ」


「優しい奴がデスゲームなんかさせるかよ。

 って言うか……椎名さん立場上、俺らと喋り過ぎじゃない ? 椿希も少し黙ってろよ、鬱陶しい」


「「話してないと痛いんだよ ! お前に負けたせいでな !! 」」


「……う……ごめん」


 コンコン……コン……


「入るよ」


 ドアを開けて入ってきたのはルキだった。

 無地のシャツに細身のパンツだけというラフな格好。


「みんな元気そうだね」


「ル、ルキ様 ! 」


「椎名、約束通り戻っておいで。でも、お前の事だ。焦って無理してでも退院しそうだから忠告に来たの」


「う……」


「ゆっくり治療するんだ。いいね ? 」


「はい。ありがとうございます」


 そして椿希の方を向く。


「やぁ。頼まれてたモノ、回収したよ」


「あざっす、ルキさん」


 椿希のベッドのサイドテーブルに布の袋が置かれる。蛍も椎名も、それがなにか察した。


「納骨袋……。坂下 晃のものですか ? 」


 椎名の問いに、ルキだけでなく椿希もポカンとした。その二人の表情に、椎名も蛍も困惑する。


「違うよ、しなモン」


「しなモン ? 何それ !?」


 ルキがすかさず反応する。


「椎名……ぷくく、いつの間にそんな……くくっ…… ! 高校生にあだ名付けられてるとは…… ! 」


「同意じゃないですよ……」


「あーっははは ! こりゃいいや」


 ルキがケラケラ笑う後ろで、蛍もやっぱり肩を震わせていた。


「しなモンか。ギャップが凄いね。椎名、俺も呼んでいい ? 」


「ルキ様、やめてください ! 」


「俺が付けたっす。

 同室だしぃ ? お互いイライラしてると腕痛ぇから。楽しくしてた方がいいかなぁって」


 椿希の言葉をルキは頷き承諾する。


「椎名は一見堅物だけど短気だし、案外大衆的な物が好きなんだ。たまにはシャバの空気も悪くないだろ」


「この面子でシャバって……反社の集まりじゃん」


 蛍がぽそりと呟く。


「それで、その遺骨は…… ? 」


「これは伯父さんじゃないよ」


 椿希は小さな布袋に手をやると、ソッと撫でる。


「これ、俺とけいが殺したウサギちゃんなんだ」


「え ?! 」


 椎名だけではなく、蛍が強く反応した。


「だって可哀想じゃん」


「そう……だけど……」


「ホント ? けい、本当に可哀想って思ってる ? 」


「……え………… ? 」


 大きな間の後、蛍は素直に首を振る。

 死に関して。

 初めて他人の前で、自分の思考を白状した瞬間だった。


「……食ったんだし。牛肉や豚肉と、何が違うんだよ。ウサギだって食肉加工するだろ…… ? 」


「理屈じゃそうだけどさぁ。コイツはペットとして生まれたのに、俺らに玩具にされたんだよ ? 」


「……理解はしてる」


 だが、同意は出来ない。

 蛍は椿希の行動に、不自然さしか感じなかった。家畜とペット、何が違うのか。同じ命と世の中は騒ぎながら、牛肉を美味いと食べ、犬猫を飼う。

 蛍には理解が出来ないのだ。


「けいってマジキチなー。

 実はさ。俺と梅乃様の出会いって実家の敷地だったんだよねぇ。マフィアだろうがヤクザだろうが、組員がまともな死に方すれば墓建てんだろ ?

 俺、そこで梅乃様にすげぇ、もうさぁ ! 一目惚れだよね ! 人形みたいなツルんとした三つ編みで、おっきい眼鏡が可愛くてスタイルもいいしぃ」


 気が違っていると称された事もそうだが、蛍は何故ここで梅乃の名前が出てくるのか不満で仕方が無い。更に死後もまだ言い続ける椿希の惚気。

 椎名も同じく、一貫していない椿希の会話についていけない。


「何 ? なんの話 ? ウサギの話してたんじゃないの ? 」


 困惑する蛍にルキが答えた。


「ケイも椎名も、出会ってすぐゲームだったもんね。調査書見たんだけど俺もびっくり。

 椿希くん家、寺なんだよ」


「寺っ ? 」


「そー。俺ん家、寺 !

 そんで山王寺家代々の墓と、無縁仏の組員さんたちの集合墓地もあるんだ」


「それで梅乃さんと顔見知りだったのですか……。

 は ! すみません、ルキ様。わたしの情報不足で…… ! 」


「多分、しなモンのせいじゃないっすよ。俺、普段誰にも言わないもん。俺がボーズになるのとか、マジで無理っしょ。そう言うイメージもやだし」


 椿希がヘラヘラ話す横で、蛍は頭を抱えていた。


「坂下……。坂下 ? 寺……まさか、海玄寺 ? 」


「お、けいくん知ってる ? うちの爺さんも斎場に出入りしてるからねー」


「それで、椿希……お前がウサギを供養するのか ? 」


 椎名の問いに椿希が頷く。


「ボーズになるのは嫌だけど、仕事は嫌いじゃないんだよねぇ。俺、読経してるとノリノリになっちゃってさぁ。爺さんは俺に継がせる気ないみたい。兄貴もポンコツだし。

 で、山王寺に声掛けられて、爺さんも承諾したから養子んなった」


「それって……。あの住職、悪徳坊主……って事 ? 」


 蛍が呆れると椿希が笑って頷く。


「まぁ、縁だよな。世の中って。

 で、ルキさん。もしかしてぇ〜今日退院のけいくんのお迎え〜 ? 」


「うん。そう ! 」


 ルキの返答に椎名がガバッと身を起こす。


「ルキ様 !! 危険です !! ご自身でもお分かりでしょう !!?」


「大丈夫だよ椎名。ケイも空気はしっかり読む。第二ゲームで俺を殺しに来たけど、今は牙を折られて、磨き直しの真っ最中さ。

 ね ? ケイ ? 」


 ルキが蛍のベッドに腰をかけ、微笑みかける。蛍にも拒絶の反応はない。


「……デー……。一回外出の約束だろ ? 体調悪いし。遠出とか無理なんだけど」


 蛍の冷たい返答。しかしこれに反応したのは椿希だ。


「まっじで ? これからデート !? あの状況でそんな約束とか……そんな余裕あんの ? 」


 椿希は蛍とルキの関係などどうでもいいのだ。減らず口が茶々を入れているだけ。

 見せつけられた蛍の異常性。命を狙われながらも余裕綽々のルキ。


「信じられねぇ〜。

 ま、いいじゃん。けいくん、ルキさん絶対金持ちだし。たかっちゃえ〜」


「勝手な事を言うな、山王寺 椿希 ! ルキ様は参加者を労うだけの事だ ! 他意は無いのだ ! 」


「あ〜〜〜もう、しなモンのヤキモチ煩いよ。痛くてイライラするし〜 !

 ルキさん ! 早くけいくんを連れてってよ」


 椿希のこの減らず口もたまには役に立つようで、蛍のまとめた荷物をルキが両手に抱える。


「じゃあ、行こうか」


「う、うん」


 少し気恥ずかしそうに、ルキにつられて蛍は病室をあとにした。


 残された椿希がニヤニヤと椎名に問う。


「腹心ともなると、流石にボスは口説きにくいっすか ? 」


「ぐ…… ! もう喋らん ! くっ……痛たたた……」


「しりとりでもします ? 」


「しりとりの『し』からだ ! 死ね !! 」


「ひっでぇ !! しなモン、大人げねぇ〜」

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