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第24話 それぞれの焦燥

「さぁ、効いてきたかな」


 畳の上に正座させられた椎名は、酷く汗を浮かべて、座敷椅子に座るルキに頭を垂れていた。

 自制心を失い、かなり酔う薬を投与された。全身が脱力し、思考能力を奪う。それは嘘や誤魔化しを考えることも出来ないほどだ。

 畳の感覚さえふわふわして分からないが、それでも椎名は気力だけで土下座している。


「出……過ぎた真似を、しました…… ! 」


「休みの日に、どうして椎名はケイを付け回してたの ? 」


「まさか ! つけ回すなんて !

 た……ただの通りすがりです。駐車場にパトがいた事に気付いて…… ! 」


「本当に ? 」


 立ち上がったルキがベルトを取り、思い切り椎名の背を打ち付けた。

 バチィッと言う音と共に、椎名は悶絶し畳に崩れた。


「ふっごっ…… !! がぁっ !! …… っ!! 」


「スミスに確認したけど、今日出かけたのは湊市でしょう ? この旅館は西湊。なぜ東湊が最寄り駅の蛍の家にいたのか。納得出来ないんだよ」


 再び振り下ろされるベルト。椎名のシャツが破れ所々、血が滲んできた。


「ほう……報告……の、通り…………です……ドライブ中、たまたま……」


 椎名は苦痛で顔を歪ませながらも、その眼鏡の奥の光は失われていない。

 ルキは椎名を元の姿勢に正すと、再び尋問を始める。


「そっか。じゃあ、もう一つの質問だ。

 さぁ、また腕を出して」


「……は、はい」


 ルキが注射器を打つ。

 強い酔いで、呂律が回らなくなる。可能なら今すぐ床に転がってしまいたいと、椎名の脳をかき乱す薬。


「う……あ…… ! 」


「質問に答えないと斬っちゃうかもね」


 全身に走る虫が這いずる感覚。


「んー、うぅっ !! ああぁぁ…… !!

 答れます…… ! 答れまるゥキ様っ ! 」


 忠誠心だけで耐える。

 強い酩酊作用に身体が痙攣を起こしてた。


「コンテナゲームの時、美果ちゃんを……俺の返事を待たずして内部に連れて来た理由は何かな ? 」


「ゥ、ル……キ様が、す……涼川 蛍の治療や……オークションろ準備れ立て込んでいましたので……手間を省ごうど……」


「手間かどうかは俺次第でしょ ? 」


「あっ ! うぅっ !! 横着して、しまっただけ……です ! 信じてくらさい ! 」


「……」


 見上げた椎名の視線がルキと絡む。意思が猛弱になった椎名が、思い付くままにルキに飛びかかった。


「本当にれす !! ルキ様 !! 」


「なっ…… !! 」


 ガターン !!


 籐で編まれた軽い椅子だ、そのまま縺れるようにして椎名が覆いかぶさる。


「何をするんだ !! 」


「わ、わ……わたしを !! 信じてください ! 」


「……っ。痛い。離れろ ! 」


「ルキ様ぁっ ! 」


 払い除けようとしたルキの腕を椎名が抑え込んだ。

 その瞬間、ルキの脳裏にフラッシュバックする過去の日々の体験。


「……っ !! 」


 一見標準体型に見える椎名だが、スミスと護衛役が交代になるほど、力技の多い椎名である。体格でいえば身体も厚く、ルキよりも怪力だ。

 脂汗に塗れ乱れた髪と、ずり落ちる眼鏡、荒い息遣い。

 その姿が、子供の頃自分で遊んでいった男共に見えてしまった。


「は、離せ ! 」


 パンッ !


 ようやく抜け出せた手で、椎名の頬を打つ。乾いた音を立てただけで、椎名は避けようともせずそのままルキに張り付く。


「離れません ! わたしは貴方の右腕であり左腕です !! 」


「椎名 ! 殺されたいのか !! 」


「構いません ! 貴方に必要とされなくなったら、俺に生きる意味はありません ! 」


「うぐ……っ ! 」


 ルキは強ばった身体のまま、一度息を整える。


「はぁ、はぁ。

 ……そうだね。ちょっと過敏になり過ぎたね。

 スミスが戻ったら、また仕事が入るよ」


「ルキ様 ! ええ ! 最善を尽くします ! 」


 ガバッと顔を上げると、歓喜の眼差しでルキを見る。

 ルキはゆっくり身を起こすと、ガウンの襟を正して椅子を起こす。


「椎名」


「はい」


「俺の右腕だと言う信念に間違いはないね ? 」


「勿論です ! 」


「じゃあ、その腕を賭けられるね ? 」


「え…… ? 賭ける……とは ? 」


「次のゲーム、お前も出るんだ」


「ル……ルキ様…… ! 」


 椎名は畳に手を付き崩れた。


「はい、解毒剤打つよ。

 大丈夫。お前が死ぬようなルールにはしないよ」


「相手は……涼川 蛍……ですか ? 」


「さぁ……どうしようか……」


「あああ……あ、あんまりです ! ルキ様 ! 」


 ルキは袖を捲ると、内出血をした腕の一部を確認した。


「……ったく。主人を椅子から引き摺り倒す犬なんかいらないよ。

 罰だ。それで許してやる」


「く……やります……。やりますとも ! 貴方のそばにいれるのなら ! 」


「……。話は終わりだよ。出てってくれ。

 シャワーを浴びて俺も外に出る」


「車の用意をしておきます」


「いや、運転は要らない」


「ルキ様 !! 」


「……椎名。ゲームが終わるまでは口の利き方に気を付けるんだ」


「っ……はい……」


 椎名は拳を握りしめると、ふらふらと立ち上がり部屋を出て行った。


「はぁ……」


 ルキは両手で自分の身体を包む様に抱きしめる。

 全身の小さな震えが止まらなかった。

 椅子の上で身を縮めて、椎名の手の感触が無くなるのを待つしか無かった。


 □□□□□□


 警察署から帰宅した蛍はようやく下着を交換出来る事に機嫌が良かった。

 どうせ洗濯と料理は蛍がする。汚れていても問題は無いのだが、流石に気持ちのいいものでは無かった。

 帰宅してから重明と話をし、風呂に入った現在、深夜二時を回っていた。

 Tシャツとジャージを履くと、冷蔵庫の中から夜食用のおにぎりを取り出した。

 育ち盛りの蛍の為、仕出し屋の女将がいつも差し入れを持って来てくれる。

 この日、通夜会場が開いている以上重明は少しの仮眠だけしかとらない。それも斎場に付きっきりだ。いつでも遺族が話が出来る距離で見守る。

 自宅に帰って来れば遺族も気を使い相談事を持ちかけない事もある。『寝ているかと思い遠慮してしまった』等と言わせる訳にはいかない。少ない男性社員と共に交代で夜間勤務するのだ。


 おにぎりを齧りながら、時計をぼんやり見上げる。今日は眠れそうもない。

 明日も学校だ。椿希は来るのだろうか ?

 眠れないとなると急に焦るが、今日は朝まで起きていてもいいかと覚悟を決めた時だった。


 カツン……。カツッ。


「 ? 」


 玄関の方で物音がする。

 蛍がキッチンから廊下の先の玄関ドアを見ると、曇りガラスに人影が映る。


「……」


 ひと目で分かった。

 背の高さと白いシャツ、金糸のような髪色。

 そのシルエットは間違いなくルキだ。


 purrrrr.purrrrr


 スマホが鳴るが、その着信音は自室の二階で響いている。

 蛍は少し戸惑いつつ、ドアに近付く。


「……ルキ ? 」


「あ……ケイ……。俺」


「……」


『開けろ』とは言われない。


 蛍は少し様子を伺ったが、無理矢理ドアを開けてくる訳でもない。ルキは蛍の言葉を待つだけだった。


「またゲーム ? 」


「ううん……。違うよ」


 ルキが来た意味がさっぱり分からず、結局蛍はドアを開けた。


「なんだよ……急に」


「ケイ……。少し話したくなって。来ちゃった」


「気軽に来るような時間じゃないだろ」


 蛍は周囲を見渡すと、ドアを解放し入るように促した。


「え ? 入れてくれるの ? 」


「こんなとこじゃ目立つだろ ? 今日、厄介な事になった」


「そうだったね。聞いてるよ……お邪魔します」


「部屋、行ってて。なんか飲む ? 」


「いや、要らないよ」


「そう」


 蛍は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、ルキを連れ自室に戻った。


「はい。水」


「ありがと」


「こんな時間になんだよ」


「あー……ん〜。特に……ただ来たんだ。

 そうだ、取り調べはどうだった ? 」


「……取り調べって程じゃない。世間話くらい。

 でも梅乃の手下みたいなのが警察と癒着してたんだけど……」


「調査済み。椿希くんってのとかなり仲良い刑事で伯父だってさ。要は悪徳警官ってやつ。椿希くんの情報で、他の組や犯罪者の情報を買って、成績上げたりしてる」


「あいつ……。俺の……椿希に話した奴がいる。『遺体にイタズラしてる』って通報された」


「まさか。俺がケイの欲を制御したりすると思う ? 」


「……思わないけど。美果も絶対漏らさない」


「お父さんが診察受けたカウンセラーかもね。それも梅乃ちゃんが調べて、椿希くんが知ったって感じかな」


「鬱陶しい……」


「それ同感。本当にね」


「……」


 蛍は仏頂面のまま、ルキを見る。

 台詞は物騒な癖に、酷く弱々しく見えた。なんと言うか、覇気が無い。


「そういえば、俺たち参加者を拉致する時って監視カメラはどうにかしてるんだろ ? どうして美果の映像だけ残ってるんだ ? 」


「あー……あれは本当に部下のミス」


「大学の生徒が録画をネットに上げまくってる。レイプ被害者が淫乱だったから助かったとか言って。

 これ、そっちの落ち度だろ ? 美果は生きてるし、二次被害になってる。どうにかしろよ」


「どうにか……か。分かった。穏便に解決するように方法を考えてみるよ」


 ルキの答えに蛍は困惑して顔色を伺う。


「……なんかあった ? 」


「ん ? どうして ? 」


「あんたなら『じゃあそいつら消そうか』ってすぐ言いそう」


「お互い様だろ ? 今は立て込んでるんだ。

 ……なぁ、ケイ。その伯父刑事の方……消してやるよ。今、準備中なんだ」


「ゲームに ? 」


 蛍の言葉にルキが頷く。


「俺は ? 」


「今回は見送らせて貰うよ。ケイ、君が望めば特等席で見学させてあげるよ ? ファンも君と話したいかもね」


 今回は蛍は参加しない。それを聞いた蛍は自身の中にモヤモヤとした何かを感じた。


「参加者が多いの ? 」


「いや。色々あってね……椎名を参加させるんだ。今回はそれがメインディッシュさ」


「あの……眼鏡の…… ? あんたいつも一緒にいる奴だろ ? 」


「ただの罰則さ。……きっとね」


『きっと』。その言葉は椎名次第だ。一歩間違えれば死ぬゲームばかりだと言うのに。

 蛍も椎名とやらが何かをやらかしたのだとは思ったが、それにしてはルキの方が精神的ダメージを受けているように見えた。


「ケイ、明日学校だろ ? こんな時間に悪いね」


「あんた帰る気ないだろ」


「バレた ? 」


 そう言ってクスリと笑う。


「……泊まってけば ? 俺は寝る。

 そっちにブランケットあるだろ」


「いいの ? ケイ、ありがとう」


 蛍は勝手にライトを消すと窓を向いてベッドに転がる。おそらく、ルキがちょっかい出して来るのだろうとうんざりとしながら。

 しかし、ブランケットの衣擦れ音がした後、ルキはそのまま床に横になった。


「……」


 エアコンの音だけが部屋に響く。


「……部下と……何かあったのか ? 」


「……ん〜。そんなところ。

 この仕事してるとさ、最初から100%人を信じることは無いよ。慣れてる」


「そうには見えないけど」


「そう ? 」


「……。

 床、硬くない ? 入れば ? 」


 蛍自身、自分の発言に動揺する。まるで自分から誘ってるようだと。

 しかしルキは素直に返事をすると静かにベッドへ潜り込んで来るだけだった。


「くっ付くなよ暑いから」


「落っこっちゃうもん」


「……」


「……」


「俺もゲーム出たいんだけど」


「ケイ……怪我が治るまで待たないと不利になるよ」


「ふーん、俺が有利になるようにしてくれてるのか ? 」


「そうじゃないから言ってる。本当に帰って来れなくなるよ」


「……なんだよ。今日は説教しに来たのか ? てっきり襲われると思ってたんだけど」


「……ふ。あはは。もしかして期待してた ? 」


「どうかな」


「なんだよその返事。欲しいなら言ってくれればいいのに ! 」


「今日はいい。あんた今、そんな気分じゃないだろ」


「え〜ケイ、優し ! 本当に殺すの惜しくなるじゃん」


「惜しい所申し訳無いけどさ、俺をゲームに参加させてよ」


「ケイ……」


 ルキは上半身を起こすと頭を抱える。


「今回は偶数人いないと……椎名と刑事の一騎打ちだよ。予定中のルールを変える気は無いし……」


「じゃあ、美果を連れてく」


「ケイ…… ! 美果ちゃんを巻き込まないようにしてるんじゃないのかい ? 」


「美果なら分かってくれるよ。

 その代わり、俺が勝ったら……やって欲しい事があるんだけど」


「はぁ〜。仕方ないなぁ。そこまで言うならいいよ。

 でもケイ。俺、気が変わっちゃった。

 おいで。ぶっ飛んじゃうくらい良くしてあげるよ」


 ルキが蛍を後ろからギュッと抱きしめるが、蛍は無言のまま狸寝入りを決め込んだ。

「なんだよ〜」と言うルキの声を聞きながら、本当は制御のきいていない部分を隠すようにタオルケットを抱いて丸まった。


 □□□□□□


 ──♪♪♪♪♪♪ !!


「うぎゃ ! 」


 突然電話して来るヒューミントの着信に結々花の心臓が跳ねる。


「んもう〜、なんなのよ」


 蛍の自宅の庭側から様子を伺っていた結々花だが、ドアから訪問して入ったルキの存在には気付かなかった。


「もしもーし。わたし張り込み中なんだけど」


『おいおい、聞けよ ! ルキの側近にいた眼鏡野郎がゲームに出されるらしい』


「えぇっ !? 」


 結々花はつい先程、青い顔で旅館に戻った椎名を思い出す。


「アチャ〜。わたしが報告遅れたばかりに……。大丈夫かしら……」


『でも、あいつもデスゲームから上がって来た奴だろ ? 何とか出来るんじゃねぇ ? 』


「ゲームにもよるでしょ……。

 でも、ルキなら不安要素はすぐに排除する選択をするかもね……椎名さんやばいかも」


『だろ ? 』


「あとは何か……情報ある ? 」


「今ん所は無ぇ。ルキが今回、涼川 蛍を参加させないんだとさ」


「え ? そうなの ? まぁ、初夏から連続だったもんね。その方がいいわ。焦らずゆっくりやっていきましょ。

 貴方、今ルキと一緒なの ? 」


『うんにゃ。ここにルキはいねぇよ』


「出かけたってこと ? それとも、貴方は日本にいないの ? 」


『ははは。結々花ちゃん、今日はダイレクトに聞いてきたなぁ。

 知り過ぎると、ろくな目にあわねぇよ ? 』


「多少、痛ぶられる訓練は受けてるわ。簡単に口を割らないようにね。お互いにそうでしょ ? 違うの ? 」


 結々花の問いに、男の通話からカチャッと言う音を拾った。

 結々花はそれを聞き逃さなかった。


 ──洗面台に……何か……置いた音。アクセサリー ? いえ……眼鏡だわ……。


『まぁね〜。とにかく今回は刑事の方が邪魔かな』


「刑事の方が…… ? どうして ? 」


 ──まさか。今は少しでもルキの戦力を削ぎたいのに……刑事なんかどうでもいいのに。


 椎名と刑事を天秤にかけたら、椎名を失脚させた方がいい。それなのに椎名が死ぬ事を望んでいないのは何故なのか。


「ねぇ。……貴方、今日わたしと会ってない ? 図書館で」


『……』


 男の会話が途切れる。


「図星…… ? 」


 ルキを探る接触型スパイ ヒューミント。

 その素性は……椎名では無いのか ?


『半分。50点 ! 』


「はぁ !? 何それ ? どういう……」


 全く違ったイメージと、椎名とは似ても似つかない口調。

 その時、通話がビデオに切り替わる。


「嘘……でしょ…… ? 」


 液晶に映っていたのは、確かに椎名だった。

 しかし眼鏡もなく、どことなく雰囲気も違って見えた。服の着こなしもどことなくだらしない。


『顔出しは初めましてだな ! 俺が主人格。そうだな〜、Rって呼ばれとこうかな。今後もよろしくぅ〜 ! 』


「主人格 ? 貴方、解離性同一性障害…… ? 椎名は作られた人格なの…… ? 」


『元からいたよ。だけど、一番ルキを心酔しててまじでキモイ。だから今の地位までみんなで協力して押し上げて、潜入させたって訳』


「みんなって……他の捜査官 ? 」


『違うよ。俺ん中にいる連中〜。

 ま、本部にゃ人格がナンタラ〜って報告は勘弁な。少しでも病的だって判断されるとすぐ降ろされるし、俺もやりにくくなるしさぁ』


「……信じられない……わたしが今まで話してた捜査官は……貴方は椎名だったの ? 」


『まぁ、俺の記憶は椎名は知らないから大丈夫。主人格の俺はみんなの記憶を知ってるけどね。

 だから椎名が拷問で責められようが、知らねぇ事は知らねぇんだ。

 ほら。見ぃーてよ、この背中の痣』


 Rがルキに鞭打たれた背をカメラに映した。


「 ! ……あの後……拷問されたの ? 」


『シバかれたわ〜。『美果ちゃん来た時、なんで勝手に船に入れたんだ』って怒られたな。

 俺とお前が繋がってんの、勘付かれるかと思ったぜ』


「それは危険だわ。もう連絡しない方がいい」


『ま、必要に応じてだな。

 っつーわけで、椎名が死んだら……俺も自動的に始末されるってわけ。身体は一つだからな。

 そんときゃよろしく。調査書の入ってるトランクルーム、結々花ちゃんだけが分かるようにしておくからさ』


「そんな……」


 通話が切れる。


「今回は椎名と坂下刑事の二人でゲームになるの ? そんなんで観覧者は集まるのかしら ?

椎名がルキの側近だから、面白半分ってこのなのかしらね。悪趣味だわ……」


 身近に感じていたはずのヒューミントは椎名で、多重人格。それも椎名がゲームに賭けられる。

 Rがどういう経緯で自分と同じ仕事をしているのかは知らないが、結々花は警視庁上がり。

 そして現在の所属はICPOだ。


「刑事とICPOが同時にゲームに賭けられるなんて……」


 Rがいくら貢献していても、この疾患は組織に伝えたら終わりだ。治療済みなら可能性はあるが、秘密組織や軍隊では間違いなく除名されてしまうのが現状だ。

 しかし今までの功績がある。事実、ルキの腹心として潜り込んでいるのだから、結々花よりスキルも優れている。


「バレなきゃいいだけ。今までバレていないのだから」と、結々花は自分に言い聞かせる。


 言い知れないほどの焦燥感を抱えたまま、蛍がいる部屋を車内から見上げる。

 そこにルキもいるとは知らずに。

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