しばらくすると、また、赤城のスマホが鳴った。
里津は柊木からの連絡かと思いスマホを見るが、表示された名前は別の人物だった。
それを見て、里津は嫌な予感が走った。
「……和真、涼花さんから」
ほんの一瞬、赤城は動揺を見せる。
「出る?」
「……お願いします」
赤城は懸命に心を落ち着かせて、言った。
それを聞いて、里津は応答ボタンを押すと、スマホを耳に当てた。
「涼花さん?」
「りっちゃん!? さくらが、いなくなったって!」
通話が繋がった瞬間、涼花が慌てた声で叫んだ。
嫌な予感が、当たってしまうなんて。
里津はそう思いながら、スマホを若干耳から離し、赤城に伝える。
「和真……さくらが、いなくなったらしい」
赤城の表情に動揺が浮かぶ。
だが、涼花からの着信という時点で予測していたのか、取り乱すようなことはなかった。
「ねえ、涼花さん。さくらは、学校にいたんだよね?」
「うん……でも、昼休みに外で遊んでいるうちにいなくなったって……どうしよう、さくらが……」
涼花の声から不安が伝わってくる。
しかし、涼花を安心させたくとも、電話越しではできることなどない。
それを、里津はもどかしく感じた。
「涼花さん、今どこ?」
「えっと、若瀬さんが迎えに来て、今は、警察署に向かってる……」
若瀬と合流したのなら、少しは安全だろう。
涼花のことは、若瀬に任せてよさそうだ。
そう思った里津の表情には、少し安心が見えた。
「……わかった。聞き込みが終わったらすぐに向かうから、待っててね」
そして里津は電話を切る。
「里津さん、涼花はなんと? さくらは」
予想よりも動揺を見せなかっただけで、落ち着いていられるわけがなかった。
少しでも、安心材料が欲しい。
その一心で里津に尋ねるが、里津は応えない。
「里津さん?」
一瞬だけ視線を里津にやると、里津は腕を組んで考え込んでいる。
「ねえ、和真……なんか、変じゃない? 確かにさくらが傷付けられたら許せないよ? でも、私に恨みがあって、さくらを狙う? お兄ちゃんの友達の娘を、わざわざ? 犯人の狙いってなに? 私に関わる人を片っ端から傷つけること? そんな無謀なことがしたいの?」
里津の頭に浮かんでくる疑問が、そのまま音になっていく。
だが、今の赤城は、それが聞いていられなかった。
「今はそんなこと」
「考えるべきだよ」
しかし里津ははっきりと赤城の言葉を遮った。
「今、考えるべき」
その強い言葉に、赤城は言い返せなかった。
そして、二人はようやく小学校に到着した。
グラウンドの傍に車を停め、中の様子を伺うと、授業中のようで、どこかの学年がグラウンドで鉄棒をしている。
「事務室に行って、話を聞こう」
里津の言葉を合図に車を降りようとすると、里津のスマホが鳴った。
「柊木さんから」
里津が言うと、赤城は足を止める。
そして里津はスピーカーで応答した。
「川霧さんを乗せた車が、H小学校に行ってるのを見つけた。でも、妙なの。川霧さんは車から降りて女の子を呼んでて、その子、逃げずに車に乗ってる」
H小学校は、今、里津たちが到着した学校。
希衣が呼び出した女の子は、きっと。
「それ多分……和真の娘」
「堂々とした誘拐ですね」
赤城はどこに怒りの矛先を向ければいいのか、わからなかった。
希衣といることに安心すればいいのか、それとも不安材料が増えたのかも判断できないほどに、混乱していた。
「柊木さん、それ、若瀬たちに見せておいてください。私たちは少し聞き込みしていきます」
「了解」
そして電話が切れると、二人は車を降りた。
事務室に行き、赤城さくらの話が聞きたいと伝えると、さくらと遊んでいた女の子が三人、集められた。
同学年の子たちはよく理解していないだろうということで、上級生のみだ。
「さくらちゃん、お迎えが来たって言ってたよ」
「でも、ランドセルは持って帰らなかったよね」
「変だったね」
三人は顔を見合せて、「ねー」と言っている。
「でも、凱君じゃなかったのはなんでだろう」
「最近はよく凱君といたのにね」
「私も凱君と遊びたいなあ」
三人には雑談のノリで、どんどん会話を進めていく。
自分たちが事情聴取をされているとは気付いていないようだ。
「みんな、ありがとう」
これ以上は話が逸れると思い、教師が会話を止める。
里津たちとアイコンタクトをし、三人を教室に戻らせた。