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第33話 動揺

 しばらくすると、また、赤城のスマホが鳴った。


 里津は柊木からの連絡かと思いスマホを見るが、表示された名前は別の人物だった。

 それを見て、里津は嫌な予感が走った。


「……和真、涼花さんから」


 ほんの一瞬、赤城は動揺を見せる。


「出る?」

「……お願いします」


 赤城は懸命に心を落ち着かせて、言った。

 それを聞いて、里津は応答ボタンを押すと、スマホを耳に当てた。


「涼花さん?」

「りっちゃん!? さくらが、いなくなったって!」


 通話が繋がった瞬間、涼花が慌てた声で叫んだ。


 嫌な予感が、当たってしまうなんて。


 里津はそう思いながら、スマホを若干耳から離し、赤城に伝える。


「和真……さくらが、いなくなったらしい」


 赤城の表情に動揺が浮かぶ。

 だが、涼花からの着信という時点で予測していたのか、取り乱すようなことはなかった。


「ねえ、涼花さん。さくらは、学校にいたんだよね?」

「うん……でも、昼休みに外で遊んでいるうちにいなくなったって……どうしよう、さくらが……」


 涼花の声から不安が伝わってくる。


 しかし、涼花を安心させたくとも、電話越しではできることなどない。

 それを、里津はもどかしく感じた。


「涼花さん、今どこ?」

「えっと、若瀬さんが迎えに来て、今は、警察署に向かってる……」


 若瀬と合流したのなら、少しは安全だろう。

 涼花のことは、若瀬に任せてよさそうだ。


 そう思った里津の表情には、少し安心が見えた。


「……わかった。聞き込みが終わったらすぐに向かうから、待っててね」


 そして里津は電話を切る。


「里津さん、涼花はなんと? さくらは」


 予想よりも動揺を見せなかっただけで、落ち着いていられるわけがなかった。

 少しでも、安心材料が欲しい。


 その一心で里津に尋ねるが、里津は応えない。


「里津さん?」


 一瞬だけ視線を里津にやると、里津は腕を組んで考え込んでいる。


「ねえ、和真……なんか、変じゃない? 確かにさくらが傷付けられたら許せないよ? でも、私に恨みがあって、さくらを狙う? お兄ちゃんの友達の娘を、わざわざ? 犯人の狙いってなに? 私に関わる人を片っ端から傷つけること? そんな無謀なことがしたいの?」


 里津の頭に浮かんでくる疑問が、そのまま音になっていく。


 だが、今の赤城は、それが聞いていられなかった。


「今はそんなこと」

「考えるべきだよ」


 しかし里津ははっきりと赤城の言葉を遮った。


「今、考えるべき」


 その強い言葉に、赤城は言い返せなかった。


 そして、二人はようやく小学校に到着した。

 グラウンドの傍に車を停め、中の様子を伺うと、授業中のようで、どこかの学年がグラウンドで鉄棒をしている。


「事務室に行って、話を聞こう」


 里津の言葉を合図に車を降りようとすると、里津のスマホが鳴った。


「柊木さんから」


 里津が言うと、赤城は足を止める。

 そして里津はスピーカーで応答した。


「川霧さんを乗せた車が、H小学校に行ってるのを見つけた。でも、妙なの。川霧さんは車から降りて女の子を呼んでて、その子、逃げずに車に乗ってる」


 H小学校は、今、里津たちが到着した学校。

 希衣が呼び出した女の子は、きっと。


「それ多分……和真の娘」

「堂々とした誘拐ですね」


 赤城はどこに怒りの矛先を向ければいいのか、わからなかった。


 希衣といることに安心すればいいのか、それとも不安材料が増えたのかも判断できないほどに、混乱していた。


「柊木さん、それ、若瀬たちに見せておいてください。私たちは少し聞き込みしていきます」

「了解」


 そして電話が切れると、二人は車を降りた。


 事務室に行き、赤城さくらの話が聞きたいと伝えると、さくらと遊んでいた女の子が三人、集められた。


 同学年の子たちはよく理解していないだろうということで、上級生のみだ。


「さくらちゃん、お迎えが来たって言ってたよ」

「でも、ランドセルは持って帰らなかったよね」

「変だったね」


 三人は顔を見合せて、「ねー」と言っている。


「でも、凱君じゃなかったのはなんでだろう」

「最近はよく凱君といたのにね」

「私も凱君と遊びたいなあ」


 三人には雑談のノリで、どんどん会話を進めていく。

 自分たちが事情聴取をされているとは気付いていないようだ。


「みんな、ありがとう」


 これ以上は話が逸れると思い、教師が会話を止める。


 里津たちとアイコンタクトをし、三人を教室に戻らせた。

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