車に乗り込み、署に戻ろうとしたそのとき、里津のスマホが鳴った。
凱からの着信だ。
普段なら対応しないが、里津は嫌な予感がし、応答した。
「里津、希衣からSOSだ!」
繋がった瞬間、凱が叫んだ。
「え……?」
里津は反応が遅れる。
里津がその言葉を理解するより先に、凱が説明を重ねていく。
「希衣から助けてってメッセージが届いたんだよ! 電話しても繋がらねえ」
そこまで言われ、里津は状況の悪さを把握した。
そして、凱が息切れしていることに気付く。
「凱くん、今どこに向かってるの?」
「とりあえず、希衣の会社の周辺! この時間なら、昼飯で外に出た可能性があるだろ」
それは無闇に走り回っていると言っているようなもの。
どうやら、里津が想像していた以上に、最悪な事態らしい。
それを理解していく里津は、手が震える。
すると、赤城は里津の手からスマホを取ると、スピーカーに変えた。
「で、柊木に繋げ! 五分前、希衣がどこにいたのか防犯カメラで探してもらうのと、希衣のスマホの位置情報を調べてもらえ!」
それを聞くと、赤城はすぐに電話を繋ぐ。
「それから、和真にも! 今すぐ、さくらのところに向かえって伝えろ! さくらを守れる人間がいない!」
その一言で、赤城は柊木と電話が繋がっても、少しの間、言葉を失った。
柊木に何度も呼ばれて現実に戻るが、その顔は絶望を語っている。
「涼花さんは大丈夫なの……?」
里津の声は小さく、震える。
「家から出るなとは言ってるが、安全とは言い切れない。守りに行けるなら、行った方がいいだろうな」
凱は疲れてきたのか、声量が少し小さくなる。
「凱、柊木さんと連絡が取れた。今調べてもらっているが……望みは薄いだろう」
里津は大きく目を開き、赤城を見つめる。
その瞳は震えている。
「どうして……?」
「俺みたいに襲われたなら、スマホが壊された可能性。拐われたなら、スマホの電源が切られている可能性があるからだ」
凱が質問に答えてくれたのはいいが、里津の絶望感は増すばかりだ。
「とにかく、お前らはさくらのところに行け!」
「言われなくても」
赤城はエンジンをかけ、車を走らせる。
「凱くん……希衣ちゃん、大丈夫だよね……」
エンジン音に負けてしまいそうな声で、里津は涙目で聞いた。
凱がわかるわけがない。
そう知っていても、聞かずにはいられなかった。
「弱気な声出してんじゃねえよ。俺が絶対助けるから。安心しろ」
凱の力強い言葉に、里津は本当に大丈夫な気がしてくる。
里津は零れる前の涙を拭う。
「……うん」
そのやり取りを聞きながら、赤城は、やはり二人は兄妹なのだと感じていた。
何度言っても、里津が“絶対”を使う理由。
それは、凱に影響されているから。
そして、凱が必ず達成させる姿を見てきたから。
改めて木崎凱という男のカリスマ性を感じた。
「凱、電話を切って川霧さんを探すことに集中しろ。里津さんは、若瀬くんたちに連絡を」
「言われなくても」
「わかった」
そして里津は電話を切ると、そのまま若瀬に連絡した。