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第31話 波乱

 車に乗り込み、署に戻ろうとしたそのとき、里津のスマホが鳴った。


 凱からの着信だ。


 普段なら対応しないが、里津は嫌な予感がし、応答した。


「里津、希衣からSOSだ!」


 繋がった瞬間、凱が叫んだ。


「え……?」


 里津は反応が遅れる。


 里津がその言葉を理解するより先に、凱が説明を重ねていく。


「希衣から助けてってメッセージが届いたんだよ! 電話しても繋がらねえ」


 そこまで言われ、里津は状況の悪さを把握した。


 そして、凱が息切れしていることに気付く。


「凱くん、今どこに向かってるの?」

「とりあえず、希衣の会社の周辺! この時間なら、昼飯で外に出た可能性があるだろ」


 それは無闇に走り回っていると言っているようなもの。

 どうやら、里津が想像していた以上に、最悪な事態らしい。


 それを理解していく里津は、手が震える。


 すると、赤城は里津の手からスマホを取ると、スピーカーに変えた。


「で、柊木に繋げ! 五分前、希衣がどこにいたのか防犯カメラで探してもらうのと、希衣のスマホの位置情報を調べてもらえ!」


 それを聞くと、赤城はすぐに電話を繋ぐ。


「それから、和真にも! 今すぐ、さくらのところに向かえって伝えろ! さくらを守れる人間がいない!」


 その一言で、赤城は柊木と電話が繋がっても、少しの間、言葉を失った。


 柊木に何度も呼ばれて現実に戻るが、その顔は絶望を語っている。


「涼花さんは大丈夫なの……?」


 里津の声は小さく、震える。


「家から出るなとは言ってるが、安全とは言い切れない。守りに行けるなら、行った方がいいだろうな」


 凱は疲れてきたのか、声量が少し小さくなる。


「凱、柊木さんと連絡が取れた。今調べてもらっているが……望みは薄いだろう」


 里津は大きく目を開き、赤城を見つめる。

 その瞳は震えている。


「どうして……?」

「俺みたいに襲われたなら、スマホが壊された可能性。拐われたなら、スマホの電源が切られている可能性があるからだ」


 凱が質問に答えてくれたのはいいが、里津の絶望感は増すばかりだ。


「とにかく、お前らはさくらのところに行け!」

「言われなくても」


 赤城はエンジンをかけ、車を走らせる。


「凱くん……希衣ちゃん、大丈夫だよね……」


 エンジン音に負けてしまいそうな声で、里津は涙目で聞いた。


 凱がわかるわけがない。


 そう知っていても、聞かずにはいられなかった。


「弱気な声出してんじゃねえよ。俺が絶対助けるから。安心しろ」


 凱の力強い言葉に、里津は本当に大丈夫な気がしてくる。


 里津は零れる前の涙を拭う。


「……うん」


 そのやり取りを聞きながら、赤城は、やはり二人は兄妹なのだと感じていた。


 何度言っても、里津が“絶対”を使う理由。

 それは、凱に影響されているから。


 そして、凱が必ず達成させる姿を見てきたから。


 改めて木崎凱という男のカリスマ性を感じた。


「凱、電話を切って川霧さんを探すことに集中しろ。里津さんは、若瀬くんたちに連絡を」

「言われなくても」

「わかった」


 そして里津は電話を切ると、そのまま若瀬に連絡した。

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