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第28話 現在

 里津は捜査一課を出ると、インターネット管理部に向かった。


「お、久しぶりに見る組み合わせだ」


 入ってきた里津と赤城を見て、一番に反応したのは、柊木ひいらぎ桃香ももか

 ポニーテールが良く似合う、凱たちの同期だ。


 里津はまっすぐ、柊木の元に向かう。


「柊木さん、この事件の関係者の、現在場所が知りたいんだけど、調べられます?」


 柊木は事件資料を受け取ると、数枚めくる。


「十五年前か……まあ、できると思うけど、どうしてまた、こんな昔の事件を追ってるの?」

「いろいろあって」

「いろいろねえ。どうせ、昔みたいに未解決事件は一つ残らず解決してやる!って、息巻いたんじゃないの? ダメだよ、赤城くんを困らせたら」


 柊木は笑いながら言うと、パソコンを操作する。

 それは子供に言い聞かせるような言い回しで、里津は頬を膨らませた。


「……今回は違うもん」

「あれ、そうなの? ごめんごめん」


 子供のように拗ねる里津に対して、柊木は笑って謝る。


 まったく悪いと思っていないのは明らかだが、里津は文句は重ねなかった。


「んー……まあ、一応見つかりはしたけど……」


 柊木はそう言って、パソコンの前からキャスター付きの椅子を動かす。

 里津と赤城は、並んで画面を覗き込んだ。


 そこには、事件関係者の現在情報について示されている。


 この十五年の間に亡くなっていたり、県外に引っ越していたりする人が多く、調査は難航しそうだった。


「あと、これね」


 二人の顔が険しくなる中で、柊木は別のページを開いた。

 それは、永戸怜南についての情報だった。


「怜南さんのことも調べたの?」

「一番の事件関係者でしょ?」


 柊木は、なぜ里津が驚いた様子で言うのか、不思議そうに言った。


「そうだけど……」


 里津は言い淀むと、柊木から視線を逸らし、表示された情報を読んでいく。


『永戸怜南は五歳で両親を失い、母方の祖父母に引き取られるも、十歳を過ぎたあたりで祖母が他界。

 一年も経たないうちに、祖父も他界していた。


 その後、父方に預けられる案が持ち上がったが、声の出ない怜南を引き取ることを名乗り出る者もおらず、怜南は施設に預けられる。


 そんな中、葉宮と出会ったのは中学のときだった。


 葉宮千晴は怜南を見て、昔の友人である鈴石志保の面影を思い出した。

 そこから怜南を娘同然に気にかけるようになり、高校生になると、怜南は葉宮家に居候をすることとなった。


 現在は、葉宮夫妻が経営する飲食店で働いている』


 想像を絶する内容に、里津も赤城も声が出ない。


「警察官になって十年くらい経つけど……やっぱり、事件被害者の人生を見るのは、慣れないね」


 柊木は苦しそうな表情でそう呟いた。

 それは里津も赤城も同じで、似たような顔をしている。

 むしろ、里津は憎しみもこもっているような気がした。


「ねえ和真……葉宮夫妻に会いに行くのは、セーフ?」


 少しでも解決に向けて動くには、なにが最善か。

 必死に考えて導いた結果が、それだった。


「なにを基準にそれを決めるのか知りませんが、僕は賛成です。有力な情報が得られそうですから」


 赤城の肯定的な言葉で、里津の緊張した顔の筋肉は緩む。


「ありがとう、柊木さん。またお願いします」


 そして里津は慌ただしく管理部を出た。


「はいはーい」


 柊木はそんな里津の背中に手を振っていた。

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