里津は捜査一課を出ると、インターネット管理部に向かった。
「お、久しぶりに見る組み合わせだ」
入ってきた里津と赤城を見て、一番に反応したのは、
ポニーテールが良く似合う、凱たちの同期だ。
里津はまっすぐ、柊木の元に向かう。
「柊木さん、この事件の関係者の、現在場所が知りたいんだけど、調べられます?」
柊木は事件資料を受け取ると、数枚めくる。
「十五年前か……まあ、できると思うけど、どうしてまた、こんな昔の事件を追ってるの?」
「いろいろあって」
「いろいろねえ。どうせ、昔みたいに未解決事件は一つ残らず解決してやる!って、息巻いたんじゃないの? ダメだよ、赤城くんを困らせたら」
柊木は笑いながら言うと、パソコンを操作する。
それは子供に言い聞かせるような言い回しで、里津は頬を膨らませた。
「……今回は違うもん」
「あれ、そうなの? ごめんごめん」
子供のように拗ねる里津に対して、柊木は笑って謝る。
まったく悪いと思っていないのは明らかだが、里津は文句は重ねなかった。
「んー……まあ、一応見つかりはしたけど……」
柊木はそう言って、パソコンの前からキャスター付きの椅子を動かす。
里津と赤城は、並んで画面を覗き込んだ。
そこには、事件関係者の現在情報について示されている。
この十五年の間に亡くなっていたり、県外に引っ越していたりする人が多く、調査は難航しそうだった。
「あと、これね」
二人の顔が険しくなる中で、柊木は別のページを開いた。
それは、永戸怜南についての情報だった。
「怜南さんのことも調べたの?」
「一番の事件関係者でしょ?」
柊木は、なぜ里津が驚いた様子で言うのか、不思議そうに言った。
「そうだけど……」
里津は言い淀むと、柊木から視線を逸らし、表示された情報を読んでいく。
『永戸怜南は五歳で両親を失い、母方の祖父母に引き取られるも、十歳を過ぎたあたりで祖母が他界。
一年も経たないうちに、祖父も他界していた。
その後、父方に預けられる案が持ち上がったが、声の出ない怜南を引き取ることを名乗り出る者もおらず、怜南は施設に預けられる。
そんな中、葉宮と出会ったのは中学のときだった。
葉宮千晴は怜南を見て、昔の友人である鈴石志保の面影を思い出した。
そこから怜南を娘同然に気にかけるようになり、高校生になると、怜南は葉宮家に居候をすることとなった。
現在は、葉宮夫妻が経営する飲食店で働いている』
想像を絶する内容に、里津も赤城も声が出ない。
「警察官になって十年くらい経つけど……やっぱり、事件被害者の人生を見るのは、慣れないね」
柊木は苦しそうな表情でそう呟いた。
それは里津も赤城も同じで、似たような顔をしている。
むしろ、里津は憎しみもこもっているような気がした。
「ねえ和真……葉宮夫妻に会いに行くのは、セーフ?」
少しでも解決に向けて動くには、なにが最善か。
必死に考えて導いた結果が、それだった。
「なにを基準にそれを決めるのか知りませんが、僕は賛成です。有力な情報が得られそうですから」
赤城の肯定的な言葉で、里津の緊張した顔の筋肉は緩む。
「ありがとう、柊木さん。またお願いします」
そして里津は慌ただしく管理部を出た。
「はいはーい」
柊木はそんな里津の背中に手を振っていた。