自分の席に戻ると、里津はズボンのポケットからスマホを取り出した。
電源をつけてみれば、なんの通知も届いていないことに気付いた。
昨日、定期的に連絡すると希衣が言っていたのに、それがない。
身体の奥底から、一気に不安が込み上げて来た。
里津は飛び出すように廊下に出ると、希衣に電話をかける。
一秒。
また一秒と、コールの時間が長くなっていく。
これほどまでに長く感じる一秒はないだろう。
里津はますます焦り始める。
「木崎、どうした」
里津の様子がおかしいことに気付いた若瀬が、追いかけて廊下に出て来た。
「希衣ちゃんが電話に出ないの」
その一言で、若瀬にも嫌な予感が走る。
里津は電話を切り、もう一度かけると、今度は反応があった。
だが、それは最悪な反応だった。
「切れた……?」
里津の呟きに、若瀬の顔色も変わる。
まさか、そんな。
こんなにもすぐに、次の被害者が出てしまうなんて。
若瀬は焦るが、その何倍も、里津は焦っているようだ。
『仕事中』
すると、希衣からメッセージが届いた。
その一言とネコが怒っているスタンプが送られてきて、里津の全身から力が抜ける。
『本当の本当に仕事中?』
『ウソついてどうすんの』
『無事でよかった……』
送ったメッセージ通り、里津は安堵の息を吐いた。
「とりあえず、一安心だな」
画面の端を見て、若瀬は安堵のため息をつく。
だが、里津はそれを言葉通りに受け取らなかった。
若瀬を睨み、そっぽを向く。
「若瀬のそういうところがキライ」
唐突に売られた喧嘩を、若瀬は思わず買ってしまった。
「はあ? 今の発言のどこにそう思う要素があったんだよ」
「裏切り者かどうか確かめろって言ってるみたいだった」
里津は顔を合わさず言いながら、メッセージを打つ。
「確かめないことには、否定も肯定もできないだろ」
里津はその言葉を聞き流し、送ったメッセージを若瀬に見せつける。
これで満足かと、不満そうな顔に書いてある。
『希衣ちゃん、今日の夜、会える?』
「今聞かないのか」
若瀬は意外だと思った。
里津の機嫌は治らないまま、スマホをポケットに入れる。
「どうせ、メッセージだと信じないんでしょ」
「それはお前も一緒だろ」
ああ言えばこう言うとはこのことか。
そんなことを思いながら、里津と若瀬は睨み合う。
「二人は本当に相性が悪いですね」
そこに、事件資料保管庫に向かう途中の赤城がやって来た。
睨み合い中の二人を見て、呆れた様子だ。
「そう思うなら、コンビ解消させてよ」
「良くなる気配はないし、良くしたいとも思わないですからね」
ある意味、息があっているような気がする赤城は、微笑ましく感じる。
「生憎、里津さんと組みたいという申し出がないので、そのまま頑張ってください。若瀬君、最低一年の辛抱です」
「ねえ和真、なんか私に対して酷くない?」
赤城はただ、笑って誤魔化すだけだった。