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第20話 相容れない

 自分の席に戻ると、里津はズボンのポケットからスマホを取り出した。


 電源をつけてみれば、なんの通知も届いていないことに気付いた。

 昨日、定期的に連絡すると希衣が言っていたのに、それがない。


 身体の奥底から、一気に不安が込み上げて来た。


 里津は飛び出すように廊下に出ると、希衣に電話をかける。


 一秒。

 また一秒と、コールの時間が長くなっていく。


 これほどまでに長く感じる一秒はないだろう。

 里津はますます焦り始める。


「木崎、どうした」


 里津の様子がおかしいことに気付いた若瀬が、追いかけて廊下に出て来た。


「希衣ちゃんが電話に出ないの」


 その一言で、若瀬にも嫌な予感が走る。


 里津は電話を切り、もう一度かけると、今度は反応があった。

 だが、それは最悪な反応だった。


「切れた……?」


 里津の呟きに、若瀬の顔色も変わる。


 まさか、そんな。

 こんなにもすぐに、次の被害者が出てしまうなんて。


 若瀬は焦るが、その何倍も、里津は焦っているようだ。


『仕事中』


 すると、希衣からメッセージが届いた。

 その一言とネコが怒っているスタンプが送られてきて、里津の全身から力が抜ける。


『本当の本当に仕事中?』

『ウソついてどうすんの』

『無事でよかった……』


 送ったメッセージ通り、里津は安堵の息を吐いた。


「とりあえず、一安心だな」


 画面の端を見て、若瀬は安堵のため息をつく。


 だが、里津はそれを言葉通りに受け取らなかった。

 若瀬を睨み、そっぽを向く。


「若瀬のそういうところがキライ」


 唐突に売られた喧嘩を、若瀬は思わず買ってしまった。


「はあ? 今の発言のどこにそう思う要素があったんだよ」

「裏切り者かどうか確かめろって言ってるみたいだった」


 里津は顔を合わさず言いながら、メッセージを打つ。


「確かめないことには、否定も肯定もできないだろ」


 里津はその言葉を聞き流し、送ったメッセージを若瀬に見せつける。


 これで満足かと、不満そうな顔に書いてある。


『希衣ちゃん、今日の夜、会える?』


「今聞かないのか」


 若瀬は意外だと思った。


 里津の機嫌は治らないまま、スマホをポケットに入れる。


「どうせ、メッセージだと信じないんでしょ」

「それはお前も一緒だろ」


 ああ言えばこう言うとはこのことか。


 そんなことを思いながら、里津と若瀬は睨み合う。


「二人は本当に相性が悪いですね」


 そこに、事件資料保管庫に向かう途中の赤城がやって来た。

 睨み合い中の二人を見て、呆れた様子だ。


「そう思うなら、コンビ解消させてよ」

「良くなる気配はないし、良くしたいとも思わないですからね」


 ある意味、息があっているような気がする赤城は、微笑ましく感じる。


「生憎、里津さんと組みたいという申し出がないので、そのまま頑張ってください。若瀬君、最低一年の辛抱です」

「ねえ和真、なんか私に対して酷くない?」


 赤城はただ、笑って誤魔化すだけだった。

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