「女の子を呼び出す場がラーメン屋さんって、どうなんです?」
凱がようやく赤城から解放され、近場のラーメン店で豚骨ラーメンを食べようとしたのと同時に、ボーイッシュな格好をした女性、希衣が凱の前に座った。
凱は希衣が来るため、一人で入店しておきながら、テーブル席を選んでいた。
希衣は少し不満そうだ。
凱はラーメンをすすりながら、希衣の苦言に答える。
「それはほら、俺がラーメン食べたかったから」
「相変わらず、自分中心の人だ」
希衣は少し呆れたように笑うと、店員に水を頼んだ。
「久しぶりだな、希衣。俺が刑事やめたとき以来だから……三年ぶりくらい?」
「そうですね。それくらいだと思います」
二人の会話を断つのは、凱がラーメンをすする音。
希衣には凱が食べ終わるまで待つという選択肢と、自分もなにか頼むという選択肢があったが、長居する気はなかったので、水を飲んで間を埋めた。
「でも、凱先輩に呼び出されるなんて、思ってなかったです。それも、里津のスマホで。まさか告白?と思ったのに、場所が場所だし?」
希衣は店内を見渡し、言う。
『告白されるかも』なんて思ったらしい希衣を、凱は鼻で笑った。
「残念ながら、告白ではない」
「まあ、わかってましたけど、よかったです。じゃあ、どうして?」
凱は希衣が来るまで、どう説明するか考えていた。
だが、どうしても簡潔に伝えることができなさそうで、まだまとまっていなかった。
残りを食べ切り、水を飲む。
それはなにかを決意したようにも見える。
「……俺、殺されかけたんだよね」
予想外の発言に、希衣は反応に戸惑う。
「冗談……ですよね?」
凱がいつものふざけた顔をしていないから、冗談だと信じたい気持ちでこぼした。
「こんな趣味の悪い嘘をつくかよ」
しかし真実だとされてしまうと、希衣はますますなにを言うべきか迷った。
そんな希衣を気遣ってか、凱は希衣の言葉を待たずに話を進めていく。
「詳細はちょっと言えないんだけど、犯人集団の目的は里津の周りの人間を排除することらしい」
これほど簡潔で複雑な説明はないだろう。
希衣は深掘りしようとしたが、それよりも気になることがあった。
「えっと……それで、凱先輩が狙われたんですか?」
「そう。それも、俺が最初」
これも、嘘をついているようには見えない。
希衣は数回、ゆっくりと瞬きをする。
「元刑事を一番? それも、凱先輩? え、犯人アホすぎません? 負けるの、目に見えるのに」
「そう、アホなんだよ。里津の周りで狙いやすいのは両親か希衣、そして赤城の嫁の
凱の表情は、思いっきり犯人を嘲笑している。
そして希衣はそれを聞いて、妙に納得した。
「あー……なるほど。だから凱先輩、私に連絡してきたんですね」
「察しがよくて助かる。里津が、次は希衣が狙われるかもってかなり気にして、仕事も手につかないみたいな感じだったからさ」
希衣は「んー……」と声をもらしながら、視線を少し上にあげた。
「ありがたい話ですけど、遠慮しておきます」
そして、笑顔で凱の提案を断った。