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第8話 似た者同士

「そんな君がエースと組みたいって希望出したのは、知り合いが巻き込まれた事件の犯人を捕まえたいから?」


 里津は葉宮の表情を見るために、少しだけ振り返る。


 合ってるでしょ?


 そう言いたげな目だ。

 その自信に、葉宮は呆れたような、そして少し困ったような笑みをこぼす。


「また言い切るんですね。もう捕まっている可能性だってあるでしょう」

「それはそうかもだけど……犯人が捕まってたら、君はここにいないでしょ」

「彼女のような人を減らしたいって思いでここにいるかもしれないじゃないですか」


 里津の決めつけるような物言いはこちらを見下しているようで、葉宮は不満そうに言った。


 すると、里津は軽く驚いた。

 葉宮はそれがわざとらしく見えて、ますます気に入らない。


「なるほど、それは思いつかなかったや」


 果たして、本当にそうだろうか。

 その可能性も考えた上で、棄却したとしか思えない。


 そこまで考えられるんだね、とやっぱり下に見られているように感じてならない。


「……あの、さっきからちょっと強引すぎませんか」


 里津がすべて決めてかかってくるのも、見下されているのも、全部、葉宮は気に入らなかった。


 だが、見事に言い当てられていたこともあって、あまり強く言えなかった。


「だって、君がわかりやすすぎるから」


 葉宮は勢いで反論したくなったが、里津に勝てるような気がしなくて、言葉を飲み込んだ。


 悔しそうに黙る葉宮を見て、里津は小さく息を吐き出した。


「君のことだから、その事件の詳細を私に教えてなるものかって思うだろうけど」

「どうして、そう思うんですか」


 自分の思考を断定されて、葉宮は思わず口を挟んだ。


「自分の手で捕まえたいって思ってるんじゃないの?」


 里津はキョトンとした表情をして言う。


 里津がさっき言っていたわかりやすいというのは、案外間違っていないのかもしれない。

 そう、思わざるを得なかった。


「私が知ったら、解決したくなっちゃうし、そのために言わないっていうのは、間違ってないけど……単独行動は禁止されているからね」

「……わかっています」


 どの口が言っているのか。

 思わずそう言ってしまうところだったが、葉宮はなんとかその衝動を押さえ込んだ。


「動きたいと思ったら、和真に声をかけるといいよ」


 そこに差し出されたアドバイスは、葉宮を救うより混乱させた。


「どうして赤城さんに?」

「和真は、事件に対して一直線な人間とか、自己中な人の扱いに慣れてるから。まあ、ちょっと……いや、かなり頭が固いから、協力してくれるかはわかんないけど」


 事件に対して一直線な人間。

 それはきっと、里津のことだろう。


 では、自己中な人は?

 これも里津のことを言っているのだろうか。

 だが、里津は被害者のことを一番に考えているような人。

 自己中とは少し違うような気がした。


 葉宮は誰のことを言っているのか気になったが、失礼な質問になるのが明らかで、聞けそうになかった。


「里津!」


 すると、背後から知らない声がした。

 あまりにも唐突で、葉宮は必要以上に肩をビクつかせた。


 振り向くと、葉宮よりも少し背が高そうな男が、縄で縛った男を担いでそこにいた。


 状況が飲み込めず、葉宮はわかりやすく混乱する。


「こんなところでなにしてんの?」

「それはこっちのセリフだよ……」


 里津は呆れた声で言う。


「あ、わかった。事件だろ。さっきサイレンうるさかったもんな」


 そんなことよりも、その縄で縛った男について説明してくれないだろうか。


 そう思ったが、初対面ということもあり、葉宮には聞けなかった。


「あの、木崎さん、この方は……?」


 変わりに里津に尋ねると、里津はため息をつきながら葉宮の横に立つ。


「私の兄の、木崎がい。組織は息が詰まる、やりにくいってだけの理由で、トップ刑事の座を退いた人」


 葉宮には、里津が渋々紹介しているように見えた。

 仲が悪いのだろうか。

 だが、さっきのやり取りからはそう感じ取られなかったが。


「……で、その人は?」


 葉宮が聞けなかったことを、里津はあっさりと聞いた。

 凱は思い出したかのように、男を下ろす。

 男が大人しく抱え上げられていたのは、気絶していたからだと、二人は気付いた。


「ああ、さっき、銃刀法違反と殺人未遂で捕まえたんだ」


 葉宮は引退しても身体が動いてしまったのだろうか、なんて思ったが、里津は大きく息を吐き出した。


「もう刑事じゃないんだから、そういうことしちゃダメでしょ」

「あ? なんだよ、里津。和真みたいなこと言うのな。アイツと働くようになってから、似てきたんじゃないか? やだねえ、頭が固いってのは」


 あの里津が押されている。


 葉宮は、里津が言っていた『自己中な人』が誰のことを指していたのか、理解した気がした。

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