若瀬は自分のバディである
現場にはすでに何人かの警察官が集まっていて、捜査を開始している。
現場は、あまり人通りの多い場所とは言えそうにない場所だった。
車が一台通れるかどうかの、狭い道。
監視カメラに写っていいるかどうか、怪しい場所。
「こんな場所でか弱い女性を狙うなんて、許せませんね」
赤城は辺りを見渡しながら言う。
クールに見えるが、その中に静かに怒りが込められる。
「同感です。どうします? 俺たちは被害者に事情聴取できませんし、聞き込みにでも行きます?」
朝であるから、通勤や通学、散歩などで人通りがあったことを期待したいところだが、人目があれば事件は発生いしていないだろう。
つまり、目撃情報も期待できそうにない。
それでも、動かないという選択肢はなかった。
「それが最善でしょう。ただ、少し詳しい情報がほしいですね」
「聞いてきます」
そして若瀬は警察官が纏まっているところに向かおうとするが、その背中に声をかける人物が一人。
「若瀬さん、僕には無理です」
葉宮は半泣き状態だった。
なぜ葉宮がこんな状態なのか。
若瀬は、詳しく聞かずとも察した。
そんな若瀬の振り向きたくない思いを感じ取ったのか、葉宮に答えたのは、赤城だった。
「配属された初日に音を上げるとは感心しませんね、葉宮君」
厳しい言葉に一瞬怯むが、葉宮は負けじと言い返す。
「でも僕、木崎さんのやり方について行けません」
赤城に反論するとは思っていなかった若瀬は、葉宮の勇気を称える意味も込めて、笑う。
「だろうなあ。アイツは犯人を捕まえるためなら、なんでもするから。で、木崎はなにをやらかしたんだ?」
「木崎さん、ずっと被害者になにも聞かないんです。このままだと犯人が遠くに逃げてしまうのに。だから、少しでもはやく情報を聞き出したほうがいいと思って僕が被害者に話を聞こうとしたら、思いっきり鳩尾を殴られました」
赤城と若瀬は顔を見合わせる。
若瀬は少し言葉に迷う。
「葉宮君。少しの間だけ、選手交代としましょう。若瀬君と里津さんの捜査の仕方を見て学びなさい」
目線で木崎のもとに行くように言われ、若瀬は渋々向かった。
木崎は、怯えた様子で木陰に座る女性のそばに、なにも言わずにいた。
若瀬はそっと近寄り、二人の会話が聞こえる場所に立つ。
その気配に里津は気付き、優しく彼女に声をかける。
「怖かったよね。少し落ち着いてきたかな?」
俯いたままの彼女は、小さく頷く。
フェイスラインに合わせて切りそろえられた毛先が、彼女の動きに合わせて揺れる。
「私は刑事だから、貴方を傷つけた人を捕まえる責任がある。でも、そのためには貴方に事件のことを教えてもらわないといけない。辛い思いをさせてしまうけれど、協力してくれると、嬉しい」
彼女の拳が震える。
里津はそんな彼女の拳に手を重ね、強く握った。
「安心して。貴方にこんな思いをさせた犯人は、絶対に私が捕まえるから」
その力強い言葉に、彼女が視線を上げた。
里津と目を合わせ、里津の瞳を見て安心したのか、涙を浮かべる。
「ありがとう、刑事さん……」
里津は優しい微笑みを返した。