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第2話 新人刑事

 刑事部捜査一課。


 里津はその表記のある部屋に、若瀬と言い合いをしながら向かう。

 ちなみに、逃げ出さないようにするためか、里津は若瀬に襟元を掴まれていて、歩きにくそうだ。


「ちょっと若瀬、離してよ。私、さっきの男の取り調べに行きたいんだけど」

「却下」


 若瀬が間髪入れずに言うと、里津は見るからに不貞腐れた。


「なんでよ」

「まず、課が違う」


 今回のひったくり事件は、里津たちが所属している捜査一課ではなく、捜査三課。

 自分たちの役割は知っているはずなのに、里津の不満そうな顔は消えない。


「次に、お前の取り調べはいつ訴えられてもおかしくないから、課長にできるだけやらせるなって言われてる。んで最後。もう新人が待ってる」

「おはようございます!」


 捜査一課に着くと、若瀬の言葉に続くように、眠気を覚ますような元気な声が聞こえてきた。

 その声量に、里津は両耳を塞ぐ。

 拍車をかけて、顔には不満が滲み出る。


 声だけで、声の持ち主がまっすぐで真面目な人間だと感じられる。

 里津は直感で相性が悪いと思い、去ろうとするが、若瀬に腕を捕まれたことで、できなかった。


「元気な新人だな」

「帰りたい……」


 若瀬の拘束から逃げようと思えば、逃げられる。

 だが、逃げたあとのことを考えると、そのほうが面倒で、里津は大人しく部屋の中に入った。


「何もなかったか?」


 課長席にいる男に声をかけられ、若瀬が答える。


「あー……木崎がひったくり犯を捕まえていたくらいですね。腕を折る直前ってところでした」


 課長はため息をつく。

 里津は怒られる予感がして、若瀬の背に隠れた。


「こんな日でも木崎は変わらんか。まあいい。葉宮はみや、挨拶を」

「はい。本日より配属されました、葉宮りょうです。よろしくお願いします」


 言葉の節々から見える真面目な性格も、里津は苦手としていた。

 明らかに歓迎していない表情を、若瀬は里津の前に立つことで隠す。


「俺は若瀬。よろしく。で、これが君のバディね」


 若瀬が横に動き、里津は葉宮と向かい合わせにされる。


 真新しいスーツに身を包んでいるが、ガタイの良さは隠しきれていない。

 表情が硬いのは、緊張のせいなのか。

 それとも、本人の性格ゆえか。


 なんにせよ、改めて相性の悪さが感じ取れる。

 里津はわかりやすく顔を顰め、視線を逸らした。


「あの……?」


 値踏みされた結果、なにも言われなかったことで、葉宮は困惑して、若瀬を見る。

 里津の子供じみた対応にため息をつきながら、簡潔に里津の紹介をする。


「木崎里津。ウチのエース」


 エースと組めることに対して、葉宮は気が引き締まる。

 しかし、次の言葉がそれを打ち砕く。


「で、一番の問題児だ」


 相反するワードに、一瞬脳内処理が追いつかなかった。


「エースで問題児って、どういうことですか?」


 至極当然な質問だが、若瀬は微笑むばかりでそれに答えようとしない。


「あの、若瀬さん?」


 さすがに答えようかと思ったそのとき、若瀬は里津の表情が若干動いたことに気付いた。


「すぐにわかるよ」


 若瀬がそう言うのが早いか、里津が動き出すのが早いかわからなかった。

 里津は、部署を飛び出す。


 そして、事件発生の放送が鳴る。

 女子大生が刃物で切り付けられたとのことだ。


「もしかして……事件を察知して動いた……?」


 葉宮は言いながら、信じられなかった。


「ありえないだろ? まるで超能力」


 対して、若瀬は慣れた様子で笑う。

 それから、葉宮を煽るように、片側の口角を上げた。


「さて新人君。バディはもう動いた。追いかけなくていいのか?」

「……追いかけます!」


 そして葉宮も、現場へと急いだ。

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