"A"は意識を取り戻すと、まず不快感が押し寄せてくるのを感じた。
冷たく固い地面に横たわっていることを認識する。
ぼやけた視界を鮮明にするために、一度目を閉じてから再びゆっくりとまぶたを開けた。
薄暗い空間。
灰色の天井がくすんだ感じで視界に入ってくる。
鼻先にむず痒さをおぼえ、そちらに息を吹きつけた。
かなり埃っぽい場所である。
「気がついた?」
傍らにいる"S"が顔を覗き込んでそう言った。
"S"というのは彼女のコードネームだ。Shockwaveの頭文字である。決して性格や性癖を現しているものではない。因みに、"A"は僕のコードネームでAegisの頭文字だ。
「俺たちの中でも最強の"絶対領域"があっさりやられるとはね。」
「⋯僕の二つ名は"
真面目な口調でボケたことを言うのは、コードネーム"B "だ。
こちらはBlitzの頭文字である。彼の軽口は毎度のことだが、言葉選びには注意させなければならない。最近、秋葉原のメイド喫茶にハマっているとかで、変な日本語を覚えてきた。
「そもそも、絶対領域とは、ミニスカとニーハイの間⋯痛っ!」
絶対領域のことを熱く語ろうとしたら、"S"に拳で殴られた。何を隠そう、"A"もメイド喫茶は大好物なのである。
「くだらないことばかり言ってないで、何が起こったか説明してくれるかな?」
顔は笑っているが、目はそうでもなかった。
"A"が横に目をやると、"B"はちゃっかり距離を取っている。あまり逆らうのは得策ではないと判断して、仕事の話に戻った。
「戦闘に使える能力は皆無だと思って油断したよ。」
「戦闘技術はかなりのものだと思ったけれど、諜報向きの能力を持ったどこかの元兵士というわけじゃなかったの?」
「それは俺も思った。奴は逃走する際に何の能力も使わなかったぞ。しかも、ダストシュートに飛び込むなんて危険まで冒している。能力があるなら、それをまず使わないか?」
"S"と"B"が言っているのはもっともなことだ。
出し惜しみして、命の危険をさらすのは普通では考えられない。
「同時に異なるふたつの能力を使われた。わずかな念動力しか感じられなかったからはっきりとはわからないが、おそらくサイコキネシス系とエレクトリシティ系だ。」
「俺と同じか?」
「"B"ほど派手なものじゃない。弾丸がかすったわずかな時間だけ、能力をまとわせてきた。意識を奪われたのはそれが原因だ。」
"B"も
あの男が使ったものは、もっと地味で効果的なものだ。派手さはないが、恐ろしく実戦的だといえる。
「サイコキネシス系はどんなのだった?」
「銃弾の軌道を変えてきた。弾道から推測すると、かなり変化させたように思う。」
「なるほどな。
「ただ、気になることがある。」
「気になることって?」
「彼はなぜ、あの時しか能力を使わなかったのか。君たちと相対した時も、能力を使えばもっと簡単に切り抜けられたんじゃないかな。」
"B"と"S"は顔を見合わせた。
「僕は、彼が味方にも能力を隠しているんじゃないかと感じている。」
「それって⋯」
「敵に回すと厄介だけれど、取り込める可能性はあるんじゃないかな。」
そう言って、"A"はニヤリと笑った。