顔のすぐ横に違和感を感じた。
反射的にスウェーバックで上半身を逸らす。
チッと鼻先を何かがかすめ、眼前でやはり空気が圧縮された。紙一重で避けられたが、鼻先から出血したのを感じる。
牽制に一発だけ盲射して、少し後ろへと下がった。
短く息を吸う。
あまり気が進まないが、少し奥の手を使うことにする。
奴の表情を見る限り、こちらを格下だと思って油断しているように見えた。ならば、牽制から反撃へと存分に転換させてもらおう。
時間差で三発の弾丸を発射した。この3つの弾丸には、奴が気づかない程度のごくわずかな能力を
相手はこれまでと同じように防御壁を展開した。
「!?」
防御壁は毎回体から30センチメートルほど離れた位置に展開される。
それをこれまでの連射で見極めていた。
何事にもセオリーというものがある。奴にとってはその手法が最善なのだとも思う。防御壁を展開する位置や範囲、そして体からの距離など、彼にとって確立されたものだろう。
しかし、それを敵に知られてしまうと、最善であったものは最悪へと変わってしまう。
そう、これまでの攻撃で彼の
彼は迫った3つの弾丸を
しかし、ここで弾丸が想定外の動きを見せて防御壁をかわしたのである。
相手は咄嗟のことに焦りながらも、急ごしらえにふたつの防御壁を展開した。
「!?」
二発の弾丸は彼の新たな防御壁に弾かれてしまったが、二発目の後を同じ射線で走っていた三発目が急旋回する。
すでに彼の体との距離はほとんどなく、新たな防御壁を展開する時間もなかった。
咄嗟に身をよじって避けようとするが、その首筋を弾丸がかすめていく。
彼はそのまま地面に突っ伏した。
弾丸の威力ではない。
俺が乗せた2つ目の能力が彼を麻痺させたのだ。
スミス&ウェッソン M&Pシールドを向けながら慎重に近づき、顎を蹴る。
意識を奪ったことを確認すると、別の奴らから奪っていた結束バンドで手首だけを締めあげた。
着衣のポケットを探り、彼のスマートフォンを取り出す。
他に身元を証明するようなものはなかった。
スマートフォンの認証を開き、この男の電話番号だけを記憶する。
こういった連絡先は、今後何かの役に立つかもしれないのだ。だからメモ書きなどはせずに頭の中で記憶することにしている。
それだけを行い、すぐに建物内につながる扉へと急いだ。