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第31話

顔のすぐ横に違和感を感じた。


反射的にスウェーバックで上半身を逸らす。


チッと鼻先を何かがかすめ、眼前でやはり空気が圧縮された。紙一重で避けられたが、鼻先から出血したのを感じる。


牽制に一発だけ盲射して、少し後ろへと下がった。


短く息を吸う。


あまり気が進まないが、少し奥の手を使うことにする。


奴の表情を見る限り、こちらを格下だと思って油断しているように見えた。ならば、牽制から反撃へと存分に転換させてもらおう。


時間差で三発の弾丸を発射した。この3つの弾丸には、奴が気づかない程度のごくわずかな能力を乗せておく ・・・・・


相手はこれまでと同じように防御壁を展開した。


「!?」


防御壁は毎回体から30センチメートルほど離れた位置に展開される。


それをこれまでの連射で見極めていた。


何事にもセオリーというものがある。奴にとってはその手法が最善なのだとも思う。防御壁を展開する位置や範囲、そして体からの距離など、彼にとって確立されたものだろう。


しかし、それを敵に知られてしまうと、最善であったものは最悪へと変わってしまう。


そう、これまでの攻撃で彼の理論セオリーは見切ったのだ。


彼は迫った3つの弾丸を今まで通り ・・・・・防御壁で防ごうとした。


しかし、ここで弾丸が想定外の動きを見せて防御壁をかわしたのである。


相手は咄嗟のことに焦りながらも、急ごしらえにふたつの防御壁を展開した。


「!?」


二発の弾丸は彼の新たな防御壁に弾かれてしまったが、二発目の後を同じ射線で走っていた三発目が急旋回する。


すでに彼の体との距離はほとんどなく、新たな防御壁を展開する時間もなかった。


咄嗟に身をよじって避けようとするが、その首筋を弾丸がかすめていく。


彼はそのまま地面に突っ伏した。


弾丸の威力ではない。


俺が乗せた2つ目の能力が彼を麻痺させたのだ。


スミス&ウェッソン M&Pシールドを向けながら慎重に近づき、顎を蹴る。


意識を奪ったことを確認すると、別の奴らから奪っていた結束バンドで手首だけを締めあげた。


着衣のポケットを探り、彼のスマートフォンを取り出す。


他に身元を証明するようなものはなかった。


スマートフォンの認証を開き、この男の電話番号だけを記憶する。


こういった連絡先は、今後何かの役に立つかもしれないのだ。だからメモ書きなどはせずに頭の中で記憶することにしている。


それだけを行い、すぐに建物内につながる扉へと急いだ。




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