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第27話

さっさと建物を出て安全圏に逃走するため、先を急ぐことにした。


しばらく進むと、かつてはゴミや汚泥の収集車が出入りするスペースだった場所へとたどり着いたが、見た感じでは現在は倉庫代わりに使われているようだ。


侵入口は閉鎖されていたため、別の出口へと向かうべきか思案する。


ここに来るまで、予想以上に長い距離を歩くこととなった。


汚泥を人力で運搬しているのだから大した距離ではないと思ったが、緩い傾斜のスロープになっている幅狭の通路が等間隔でつづら折れとなっていたのだ。


方向的に地下へと向かっているのはわかっていた。今は使われていないが、ダストシュートの集積場も同じ場所に位置しているため想定はしていたのだが。


そこにたどり着いてから一度建物内部に入る必要があるのか、それとも収集車のトラック・ドッグが機能しているかは現地を見て見ないとわからない状態だったのである。


設計図には記載があったが、現在も使用されているかは何ともいえなかった。


そして、今になってすぐ近くまで能力者が迫っていることに気づく。


新手だ。


先ほどのふたりとは別の能力者。


おそらく能力で気配を抑えているのだろうが、完全に消せるならもっと接近を許していたはずである。


外に繋がる車の出入口は閉鎖されていた。そのバリケードは吸音パネルにも使われている素材のようだ。気圧や隙間風の加減で音鳴りが起こるのかもしれない。詳しいことはわからないが、この空間である種の物音を抑えてくれるのはありがたかった。


ここからは地上の物音はまったく聞こえてこない。パトカーなどの甲高いサイレン音なら聞こえてきても良さそうなものだが、先ほどの銃声程度なら車のバックファイヤーくらいにしか思われていないのかもしれない。


地下駐車場の惨劇に関しては、ODS社が何らかの措置を施した可能性もあった。


しかし、複数の能力者を囲い、そいつらが派手に暴れ回るような状況になるほど重要な機密があの部屋にはあったのだろうか。


そして、今なお能力者が追ってきているということは、俺が奪った物の中にそういったものが含まれていた可能性はある。


また貧乏くじを引いたか。


詳しい内容を教えられずに任務に赴くことなど、これが初めてではない。


何を奪うのか、何のために行うのかを知らないままに人を傷つけ、自らも死地をさ迷うようなことは幾度となくあった。


今更だな。


深く考える必要などないだろう。


今はこの場からどうやって抜け出すかだけを考えればいい。そうやって割り切らなければ、精神が消耗していつか異常をきたすのである。




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