とあるマンションの一室。夫夫(ふうふ)の朝が始まる。
「
「……あと少し……」
「起きてってば!」
「んー、じゃあチューしてくれたら」
「ばかっ!」
李仁は
「バカは余計だぞ」
そう言いながら、湊音の額に優しくキスを落とす。何度も、何度も。
そして、ぎゅーっと抱きしめた。ダブルベッドがふわりと沈む。
「ダメッ! 本当に起きるの!!」
湊音は慌てて李仁を押し返し、体を起こした。李仁は笑いながら近くに置いてあったシャツを手に取る。
「はいはい、起きますよ」
「いつもちゃんと起きないから、毎日起こし方を変えなきゃいけないの面倒なんだけど」
「でも、それも楽しいでしょ?」
「からかわないで」
ベッドの上でプンプン怒る湊音のふわっとした茶髪のパーマヘアを、李仁は優しく撫でた。
「この髪型、犬みたいで可愛いな」
「あーーー!! またからかった! いい加減にして!」
「はははっ」
李仁はふと、湊音の腰に手を添える。
「や、やめろよ……」
「ふふ、こっちの大型犬も手なずけないとね」
「うるせぇ、特大のゴールデンレトリバーを手懐けられるか?」
「きゃー! ミナくんっ!」
湊音が李仁に飛びかかる。2人は笑いながらキスを交わし、そのままベッドが軋み始めた。
こうして、とある日の朝は過ぎていく。
今年のゴールデンウィーク前に高校教師を辞めた湊音。
今年の春から昇進し、エメラルド書店本部長になった李仁。
2021年、2人の日常。