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第44話 とある朝



 とあるマンションの一室。夫夫(ふうふ)の朝が始まる。


李仁りひと、起きて」

「……あと少し……」

「起きてってば!」

「んー、じゃあチューしてくれたら」

「ばかっ!」


 李仁は湊音みなとの手を引き、ぐいっと引き寄せる。そのまま押し倒し、上半身裸のままニヤッと笑った。


「バカは余計だぞ」


 そう言いながら、湊音の額に優しくキスを落とす。何度も、何度も。

 そして、ぎゅーっと抱きしめた。ダブルベッドがふわりと沈む。


「ダメッ! 本当に起きるの!!」


 湊音は慌てて李仁を押し返し、体を起こした。李仁は笑いながら近くに置いてあったシャツを手に取る。


「はいはい、起きますよ」

「いつもちゃんと起きないから、毎日起こし方を変えなきゃいけないの面倒なんだけど」

「でも、それも楽しいでしょ?」

「からかわないで」


 ベッドの上でプンプン怒る湊音のふわっとした茶髪のパーマヘアを、李仁は優しく撫でた。


「この髪型、犬みたいで可愛いな」

「あーーー!! またからかった! いい加減にして!」

「はははっ」


 李仁はふと、湊音の腰に手を添える。


「や、やめろよ……」

「ふふ、こっちの大型犬も手なずけないとね」

「うるせぇ、特大のゴールデンレトリバーを手懐けられるか?」

「きゃー! ミナくんっ!」


 湊音が李仁に飛びかかる。2人は笑いながらキスを交わし、そのままベッドが軋み始めた。


 こうして、とある日の朝は過ぎていく。


 今年のゴールデンウィーク前に高校教師を辞めた湊音。

 今年の春から昇進し、エメラルド書店本部長になった李仁。


 2021年、2人の日常。

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