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第43話

その足で、二人はバーへ向かった。


「そういえば、バーテンダーの李仁はしばらく見てないな」

「あなた、最近仕事忙しかったもんね。久しぶりにミナくんに見られるから、なんか恥ずかしいや」

「じゃあ、遠くからこっそり見てようかな」

「その方がいいかも……でも懐かしいわ。あなたが何回も通い詰めて、私の目の前に座って口説き落としてくれた頃のことが、つい最近のよう」

「……僕が口説いたっけ?」


 李仁の言葉に、昔の記憶が鮮やかに蘇る。


「そうよ。お酒飲めないあなたが、ノンアルで粘って、最終的には仕事明けを出待ちして……キスしてきたじゃない」

「やめろよ、恥ずかしい」


 湊音は顔を背けたが、その手はしっかりと李仁の手を握ったままだった。

 すると李仁は、さらにぎゅっと手を強く握る。


 周囲の人々が、男同士で手を繋ぐ二人に気づいて、何か話しているのが聞こえた。

 けれど、もう気にしない。


 湊音は、李仁を見上げて、穏やかに目を細める。


「恥ずかしくなんかないよ。だって――他の誰にも渡したくない。僕だけの李仁だから」


 李仁は一瞬驚いた後、クスッと笑った。

「まさかさっき大輝の前で手を繋いだのも……」

「ひひっ」

 湊音はいたずらっぽく笑う。


「ミナくんったら……」

「いつも李仁が僕を困らせるから、これでトントンでしょ」

「そうねぇ」


 二人は夜の街に消えていく。


 そして、バーの扉を開いた。

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