その足で、二人はバーへ向かった。
「そういえば、バーテンダーの李仁はしばらく見てないな」
「あなた、最近仕事忙しかったもんね。久しぶりにミナくんに見られるから、なんか恥ずかしいや」
「じゃあ、遠くからこっそり見てようかな」
「その方がいいかも……でも懐かしいわ。あなたが何回も通い詰めて、私の目の前に座って口説き落としてくれた頃のことが、つい最近のよう」
「……僕が口説いたっけ?」
李仁の言葉に、昔の記憶が鮮やかに蘇る。
「そうよ。お酒飲めないあなたが、ノンアルで粘って、最終的には仕事明けを出待ちして……キスしてきたじゃない」
「やめろよ、恥ずかしい」
湊音は顔を背けたが、その手はしっかりと李仁の手を握ったままだった。
すると李仁は、さらにぎゅっと手を強く握る。
周囲の人々が、男同士で手を繋ぐ二人に気づいて、何か話しているのが聞こえた。
けれど、もう気にしない。
湊音は、李仁を見上げて、穏やかに目を細める。
「恥ずかしくなんかないよ。だって――他の誰にも渡したくない。僕だけの李仁だから」
李仁は一瞬驚いた後、クスッと笑った。
「まさかさっき大輝の前で手を繋いだのも……」
「ひひっ」
湊音はいたずらっぽく笑う。
「ミナくんったら……」
「いつも李仁が僕を困らせるから、これでトントンでしょ」
「そうねぇ」
二人は夜の街に消えていく。
そして、バーの扉を開いた。