それから数ヶ月後。仕立てたスーツが仕上がり、二人は店を出る。
「本当にお似合いですよ。私もお店を閉めた後、会場に向かいますので」
「いつもありがとう……シゲさん。素敵なスーツを」
湊音も、新しいスーツを気に入っていた。店の外に出ると、思わず窓ガラスに映る自分の姿を何度も確認する。
「湊音さんも、よくお似合いですよ」
シゲさんが微笑む。李仁も深く頷いた。
「ありがとう。またよろしくお願いします」
「はい、いつでも」
シゲさんは細めた目で優しく手を振った。
李仁は、少し涙目になっていた。
――初めてスーツを仕立ててもらったのも、シゲさんだった。
元恋人にこうして最後の一着を仕立ててもらうのは、やはり感慨深い。
湊音はその涙には触れず、軽く背中を押した。
「さあ、次行くよー」
その足で、美容院へ向かう。
二人は大輝に髪を整えてもらい、すっきりとした気分で鏡を覗き込んだ。
「大輝くん、今日も素敵に仕上げてくれてありがとう」
「いえいえ、今日がラストですからね。僕も後でお店に行くよ」
整えられた髪に、仕立てたばかりのスーツ。
湊音は、より洗練された李仁の姿を見て、改めて惚れ直してしまう。
そして――不意に、李仁の右手を握った。
店内には他にも客がいたが、気にしなかった。
「大輝くん、ありがとう。また後で」
そう言うと、湊音は手を離さないまま、李仁とともに街を歩き出した。
李仁は一瞬驚いたが、すぐに柔らかく笑った。
「珍しいじゃない、あなたから手を握って歩くなんて。もう気にしないの?」
「うん、気にしない」
湊音は、ぎゅっと李仁の腕にしがみつく。
それにはさすがの李仁も少したじろいだが、すぐに微笑んだ。
「もぉ、ミナくんったら」
そのまま、二人は並んで歩いていった。