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第42話 新しいスーツと共に


 それから数ヶ月後。仕立てたスーツが仕上がり、二人は店を出る。


「本当にお似合いですよ。私もお店を閉めた後、会場に向かいますので」

「いつもありがとう……シゲさん。素敵なスーツを」


 湊音も、新しいスーツを気に入っていた。店の外に出ると、思わず窓ガラスに映る自分の姿を何度も確認する。


「湊音さんも、よくお似合いですよ」

 シゲさんが微笑む。李仁も深く頷いた。

「ありがとう。またよろしくお願いします」

「はい、いつでも」


 シゲさんは細めた目で優しく手を振った。

 李仁は、少し涙目になっていた。


 ――初めてスーツを仕立ててもらったのも、シゲさんだった。

 元恋人にこうして最後の一着を仕立ててもらうのは、やはり感慨深い。


 湊音はその涙には触れず、軽く背中を押した。

「さあ、次行くよー」


 その足で、美容院へ向かう。


 二人は大輝に髪を整えてもらい、すっきりとした気分で鏡を覗き込んだ。


「大輝くん、今日も素敵に仕上げてくれてありがとう」

「いえいえ、今日がラストですからね。僕も後でお店に行くよ」


 整えられた髪に、仕立てたばかりのスーツ。

 湊音は、より洗練された李仁の姿を見て、改めて惚れ直してしまう。


 そして――不意に、李仁の右手を握った。


 店内には他にも客がいたが、気にしなかった。


「大輝くん、ありがとう。また後で」

 そう言うと、湊音は手を離さないまま、李仁とともに街を歩き出した。


 李仁は一瞬驚いたが、すぐに柔らかく笑った。

「珍しいじゃない、あなたから手を握って歩くなんて。もう気にしないの?」

「うん、気にしない」


 湊音は、ぎゅっと李仁の腕にしがみつく。

 それにはさすがの李仁も少したじろいだが、すぐに微笑んだ。


「もぉ、ミナくんったら」


 そのまま、二人は並んで歩いていった。

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