2人が同居を初めて数週間後の放課後。湊音は職員室で大島と話をしていた。
「なぁ、湊音。そろそろお前らの家行かせてよ」
「あ、じゃあ今度の日曜に」
「ん、まじか。よっしゃ」
「人手が欲しくて。マットレス解体」
「なんだよ、俺は解体業者か? 俺は。妻連れて行こうとしたのに」
「冗談ですよーっ……て? 妻?!」
湊音は驚いて席を立った。大島は笑った。そして手品のように左手の薬指にさっきまで無かった指輪をニヤニヤとつけて見せつける。
「実は今度結婚しますぅー」
「えっ、えっ!?」
すると周りから拍手が。どうやら知ってたようだ。
「お前がウハウハの同棲生活スタートしてる隙にプロポーズしまして、今週末入籍するのよ。で、初めて夫婦になってからの訪問だったんだけど」
大島は周りの教師たちがわらわら集まってお祝いが始まる。湊音も加わって拍手するが少し羨ましいと思う。
『ぼくたちは結婚できない……』
とりあえず大島がベッドの解体しに訪問が決まったわけだが、それをその晩李仁のバーで湊音が伝えに行く。
同棲しても互いの仕事が忙しくて本屋で会ったり、バーで会ってバーで李仁のご飯を食べるということが続いている。
「大島さんが結婚ねー」
『結婚式かぁ。写真だけ撮るのもいいなぁ……て、僕も前の結婚のときもお金も時間もなくて写真すら撮ってなかったなぁー』
湊音は李仁と結婚式までとはいかないが写真を撮りたかった。
籍入れられない、でも今度こそ李仁とは一生を添い遂げたい。形を残せないからこそ、写真だけでも残したい。
だなんて言えばいいものの湊音は恥ずかしくて言えないのだ。その気持ちを読み取れない李仁はその話をふぅん、と聞くだけであった。
『お願い、李仁っ! 察して!』
と願うばかり。
「どうしたの? なにかついてる?」
「ううん、なんでもない」
「そうそう、ミナくん……ちょっとね、このへんの界隈で今噂になっているんだけどさぁ」
李仁のいうこの辺の界隈とは、夜の街のコネクションのことを指すのだ。
「なんかね、この市でパートナーシップ協定できるかもしれないって」
ブフッと湊音は口に含んでいた烏龍茶を吹き出した。