次の日の朝、湊音は校長から来年も三年の担任を続けるよう言い渡された。その言葉に湊音はびっくりした。
「教師のプライベートのことに関してはあまり深く掘り下げないが、生徒の見本となるのは君たち教師。気をつけてくれよ」
それだけであった。
職員室に戻り大島ら2年の担任たちの前で湊音が、校長からの話をして頭を下げると彼らからはまた頑張ろうと声をかけてもらった。
大島が湊音の背中を叩き、職員室のベランダに連れて行った。
「色々大変だったんだぞ。まぁお前がここの卒業生ともあって昔からのお前を見てる、だから少し多目に見てもらえた。上の奴らがあーだこーだいうからさ、あんたたちはプライベートでキャバクラとかおっパブ行ってんだろって言ったら顔真っ青になってた」
湊音は大島の行動に驚いた。
「そんなこと言ったんですか」
「お前を守るためだろうが」
「すいません……」
「あと写真を撮った部員、名前は言わないが俺んとこ来て湊音先生助けてやってくださいって。担任やめさせないでって。あ、それ言ったらお前のクラスの誰かってわかるか……まぁいいけど」
湊音も頭の中に部員の中で数人の顔が浮かんだ。
「お前がここの生徒だった時に金髪にして学校来た時によ、叱ってやったよな。あれからは真面目一筋だったが教師になってこう手がかかるなんてなー」
「すいません……でもきっかけは大島先生ですよ」
「えっ」
「李仁……に連絡したのも……てかそもそも李仁と出会ったのも大島先生が婚活パーティー誘うから」
「このっ、こっちは大変な思いしたんだぞ! 俺も彼女と街堂々と歩けねぇーっ。どーしてくれんだよ」
と、湊音は大島に小突かれる。
「て、李仁って言うから本当に付き合ってるのか」
「……はい」
大島は苦い顔をする。
「まぁ別にいいんじゃねぇの? あいつかっこいいしな。まぁ俺はそういう関係にまではならないけど」
「……同性同士ですけどどう思いますか」
「うーん、想像はしたくないけどお似合いじゃねぇの?」
と、大島は言って職員室に戻った。湊音はクラスに向かった。
生徒たちに心配されていたらしく、朝の会で話をした湊音。また来年も担任でいると話すと歓声が上がり中には泣くものがいた。
この生徒たちのためにも軽率な行動はしてはいけないとは思ったが、自分が同性愛者であることは受け入れてくれるのだろうか、それは不安になった。
しかしそれは数ヶ月後、学校祭のときにわかった。今年は展示をしたいとの意見が多くあり、それは同性愛について理解を示そうというものであり湊音のことがきっかけで生徒数人からの提案だった。
中にはもちろん受け入れないものもいたが展示を作っていく中でいろんなカップルの思いを知っていった生徒たち。
湊音自身も勉強や、いろんな人たちの意見……李仁の経験談などで知識を深めた。
なんと学校祭当日には李仁が呼ばれてトークショーたるものが開かれた。
湊音は生徒たちに彼を呼んでほしいと言われて恥ずかしくて拒否したものの、李仁はノリノリで湊音のゴーなしで出演。もともと駅にある本屋では李仁は有名な店員だったらしい。
彼の生い立ちやら経験談、司会役の生徒とのトークと質疑応答など立ち見が出るほどの大盛況。
「もー、なんでも聞いてちょうだいー。でもまだお昼だからぁ、夜の話はダメよ」
湊音も教室の隅で聞いていたが恥ずかしくて縮こまっていた。
「でもね、中には秘密にしたい、自分の中でこっそりと楽しみたい人もいるから茶化すことはしないでね。男女の恋愛もそうでしょ?」
李仁はそう言いながら湊音の手を引っ張り壇上に上がらせる。一部、きゃーっという声も出たが湊音は顔を真っ赤にしているとみんなは静まり返った。
「僕は……その、そっと楽しみたいというのもあるけど隠すつもりは……ないし、隠すものなのかな、普通に自分が好きな人。僕が好きな人が同性ってことなんだ……みんなも自分の好きな人、同性だろうが国が違うだろうが……関係ない。一生懸命恋をして、ときに傷つくことも悩むこともあるかもしれないけど楽しんで欲しい……」
そういうと観客たちは拍手をした。トークショーが終わってから一部の生徒が二人に寄ってきた。
「先生、最近かっこよくなったのも李仁さんのおかげですか?」
「う、うん……」
「うちのママがね、久しぶりに先生見たらかっこよくなったってびっくりしてた」
湊音は照れる。
「李仁さん、先生をよろしくね」
と去っていく。
「よろしくねって言われても、どこまでよろしくしてもいいのかしら」
「さぁ……」
二人は生徒たちの展示を見ている。やはりまだ結婚は認められていない現実。
「パートナーシップ制度は大都会でしか実施されていないのもねぇ。肩身狭いけどさ、私たちは私たちで楽しみましょうね」
「うん……」
正直色々とまだ心が追いつかない湊音だ
が、今日のトークショーでしっかりと話し、受けごたえもしてときにユーモアも交え話す李仁に惚れ直してしまったのだ。
『李仁となら、やっていけるのかな……』
と心の中で思うのであった。