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第14話 先生の夜遊び


湊音は先に店を出て外でタバコを吸いながら待っていた。やめようと思ってもやめられず、明里からもやめて欲しいと言われたことを思い出す度に胸が痛んだが、結局またタバコに手を伸ばしてしまう。


「お待たせ」


店から出てきた李仁は、派手な服を着ていた。

『僕と二人きりの時はシックな服がいいんだけど…あっちが好みなのに』


李仁が湊音の前を歩き、夜の街を案内し始める。湊音は李仁のバー以外にはあまり興味がなく、たまに当番で見回りに入ったことがあるだけで、夜の街についてはほとんど知らない。李仁は詳しいようだ。


「クラブとか行かないでしょ?」


「行かないよ……」


「じゃあ、少し行こうか」


『僕は二人きりがいいのに』


湊音は足を止めるが、李仁が手を掴んで引っ張ってきた。


『手、繋いだ…!』


初めて李仁の肌の感触を感じた湊音。向かった先は地下にある店で、外からは見えないほど中は賑わっていた。扉を開けると、いきなり大音量の音楽と、たくさんの人々の声で耳を圧倒された。薄暗い照明の中で、ネオンの光が踊るように反射し、カラフルなライトが辺りを照らす。人々はそれぞれのスタイルで踊り、笑い、叫びながら楽しんでいる。グラスの中の氷がカチカチと音を立て、誰かのビールが泡立ち、シャンパンのボトルが何本も開けられているのが見えた。


『こんなところに来たことがなかった』


湊音は目を丸くして周りを見渡した。男性や女性が一緒に踊り、彼らの動きに合わせて全身でリズムを感じている。音楽のビートが心臓に響き、体が自然と揺れる。李仁は楽しげにフロアを見て、「飲もうか」と言ってバーカウンターに向かった。湊音もそれに続き、リズムに身を任せながら歩く。


「怖い?」


「……うん」


「大丈夫、あそこに行ったらすっきりするから」


李仁は不敵な笑みを浮かべ、湊音をそのままフロアへと導いた。中央に位置するポールダンサーの舞台では、女性が軽やかにポールを使いながら踊っていた。彼女の動きはまるで空中で舞っているかのようで、周囲の視線が一斉に集まっていた。


「私も昔ああいうことしてたの」


「えっ、ポールダンサー?!」


李仁の意外な過去に湊音は驚き、目を大きく見開く。


「ポールダンサーというか、ゲイダンサー」


「……ゲイ…ダンサー…」


「そう、若気の至り」


「今もまだ若いじゃん」


李仁は残りのシャンディガフを飲み干し、湊音を引っ張った。


「さぁ、行くよ」


『えええええーっ』


大音量の中で知らない人とぶつかりながら、湊音はどう踊ればいいのか分からず戸惑った。しかし、李仁がリズムに合わせてカウントを取りながら体を動かす。湊音も次第にその流れに乗って、体を揺らし始めた。周りの喧騒と、他人とのぶつかり合い、そして李仁との触れ合いが湊音を完全にその世界に引き込んでいった。普段経験しないようなことばかりで、湊音は思わず何度も笑ってしまった。


一時間ほど経って、李仁に連れられて外に出る。


「楽しかったでしょ、こういうところも」


「うん、楽しい…」


あの中で何度も李仁と触れ合った。時折香る彼の香水の匂いと、他の人の香水や体臭が混じり合い、なんとも言えないが、その辺りはお酒と雰囲気のせいでカオス状態だった。


「まだどこか行くの?」


「うん、そう。二人きりになれる場所」


湊音の心臓が速くなる。李仁が手を差し伸べてきた。


その手を湊音が握り返し、二人は無言で見つめ合った。さらに奥へと歩いていくと、「カラオケ」とチープに書かれた看板が目に入る。


『カラオケ屋さん?』



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